2020 Fiscal Year Annual Research Report
A Comparative Study of Cultural and Social Transformation in Developed Countries: Focusing on Northern Europe and Japan
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19F19729
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
谷口 尚子 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 教授 (50307203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
AKALIYSKI PLAMEN 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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Keywords | 国際比較調査 / 世界価値観調査 / コロナ禍 / 統計分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
Akaliyski氏は、ヨーロッパの人々の価値観の比較調査・統計分析を専門とし、EUの分断や周辺国が抱える問題への処方箋を探る意義深い研究を行ってきた。彼は価値観の国際比較の視点を、本研究課題において日本を始めとするアジア諸国に拡張した。先行研究によれば、異なった発展経路を辿っても、先進国の人々の価値観には民主主義・自由主義・合理主義等の共通点があると指摘される。そこで彼は、1980年代から始まった「世界価値観調査(WVS)」等の大規模国際比較調査データを用いて、価値観とその変容に影響する多様な社会的・経済的・政治的要因を統計的に解析し、西洋・東洋間の違い、福祉を重視する北欧諸国と日本人の価値観の相違、また日本人に特有の価値観を探った。また、本研究課題中に生じた新型コロナウィルス感染症拡大による影響に注目して、WVS副会長のChristian Welzel教授が「Values in Crisis(コロナ危機の中の価値観の国際比較調査、VIC)」プロジェクトを始めた。現在このプロジェクトには、イギリス・ドイツ・スウェーデン・オーストリア・イタリア・ギリシャ・ポーランド・ジョージア・カザフスタン・ロシア・モルディブ・ブラジル・チリ・コロンビア・日本・中国・韓国・台湾・香港の研究者チームが参加している。Akaliyski氏と谷口はこのプロジェクトの日本データの取得(全国調査)と解析を担当し、共同研究を加速化させた。この調査データに基づき、我々は回答者の属性・心理特性・基本的価値観とコロナ禍における経験(身体的・経済的・心理的被害)の関係、コロナ禍における様々な社会的行為者・機関・政治・メディアに対する信頼感、家族・ジェンダー・環境・科学技術・宗教・移民に関する意識の変化等を分析した。研究成果を国際カンファレンス・内外の学会や研究会で発表し、論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
世界価値観調査(WVS)データの比較分析のみならず、新型コロナウィルス感染症拡大を契機とした新たな国際比較調査プロジェクトに、Akaliyski氏と谷口が日本の調査担当者として参画することができた。このプロジェクトの日本調査第1波を、2020年5月に実施した(全国の成人3000人が対象)。そのデータに基づく共同研究成果の第1弾は、「日本人は他国の人々に比べてリスク忌避志向が強く、コロナ禍のような危機時には被害や不安が大きかった人で、特に社会的不信が高くなる」という仮説を検証するものであった。本調査データによれば、日本人の国に対する不信感の強さは、人口あたりのコロナ感染者数が20倍以上多いブラジルと同程度であった。国内的には、女性より男性の方が感染等の身体的被害の経験率が高い一方、パートの減少や雇止めなどの経済的被害、そして不安やイライラなどの心理的被害は女性の方が経験率が高かった。またこれらの経験率は若年層、そして感染者数の多い都市部・緊急事態宣言発令地域で高い傾向にあった。自身あるいは身近な人がこうした負の経験をしている人、また元々不安を感じやすい心理的特質の人、日頃の幸福感が薄い人で、不安が大きい傾向があった。そして不安が高いほど、政府・地方自治体首長・医療関係者・メディア・他者への不信が高いという構造が浮かび上がった。ただし「コロナ禍でむしろ社会的一体感(団結)が高まった」という意見や、「日本はコロナ禍を乗り切るだろう」という前向きな意見もそれなりの割合を占めていた。我々はこの研究成果をメディア等にプレス・リリースした他、「コロナ危機下の価値観に関する国際調査 日本調査第1波」報告書にまとめた。そして東アジアのVICチームとの連携・研究交流を深めるために、オンライン国際シンポジウムを開催した。
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Strategy for Future Research Activity |
WVSを主導したInglehart教授とWelzel教授は、社会が発展・成熟するに従って、人々の価値観は伝統的・宗教的価値観から解放的・世俗的価値観に変化すると論じてきた。日本人の価値観は、東アジア(儒教)文化圏の中で最も北欧に近く、特に世俗性(非宗教性)が顕著だった。ただし解放的・世俗的価値観の浸透は社会の成熟つまり「余裕」に起因すると考えられることから、紛争・不況・コロナ禍などの災禍はこれらの価値観の後退を予測させる。実際、コロナ禍においては人々の心が狭量になったと指摘する調査結果と、逆に協力的になったと指摘する調査結果が、国際的に混在している。他の研究がコロナ禍の前後で意識変化を分析していないことから、我々は2019年実施のWVSデータ・2020年実施のVIC第1波調査に加え、2021年にVIC第2波調査を実施し、比較分析を行う。WVS は留置調査法、VICはインターネット調査法を用いているため、両者のデータを直接比較することができない。そこでpropensity score matchingという統計手法を活用し、回答者の属性や性質の分布の差を制御して、価値観の変化を追う。この「縦(時系列)」の比較分析に加え、「横(クロスセクショナル)」の比較分析も進める。特に、社会全体でコロナ禍に取り組む必要がある中、協力の成否に関わる「社会的信頼」について、国際比較と国内比較を行う。これまでWVSやAsian Barometer Surveyは、日本は経済・社会・政治が安定しているにもかかわらず、人々の政治不信や社会的不信が強いこと、国よりも地方自治体を信頼していることなどを示してきた。VIC第1波調査データにおいても、人々は医療関係者を最も信頼し、次いで地方自治体の首長、メディア・報道機関、政府という順になった。多様な社会的信頼について、日本人の特徴を浮き彫りにしていく。
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Research Products
(6 results)