2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19F19746
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
沈 力 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (90288605)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BI XIAOYAN 同志社大学, 文化情報学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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Keywords | 脱名詞化 / 形容詞 / 孤立的言語 / 膠着的言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)異文化理解に基づく日中両言語の語彙研究という課題であるが、昨年度は、主としてこの課題に基づいて、『紅楼夢』における中国語呼称語の日本語訳を中心に、中国語と日本語両方のデータ収集し、整理し、検証的研究を試みた。 (2)検証する中、『紅楼夢』の主人公である“林黛玉”という人名の使い方が興味深かった。具体的に言うと、本来名詞である“林黛玉”は、“小王比林黛玉還林黛玉。”「王さんは林黛玉よりも林黛玉らしい。」のように、形容詞的な用法をも持っていることである。さらにデータ調査を進めていくと、名詞の形容詞化は中国語においても日本語においても、ごく普通にみられる現象ではあるが、これまでにあまり研究されることがなかったことがわかった。孤立語である中国語と、膠着語である日本語とでは、名詞が形容詞化する場合、その生起条件とメカニズムはそれぞれ何だろうかを究明したく、研究の重点をこの課題に置くことになった。よって、今年度は、日中両言語における名詞の形容詞化現象をめぐり、対照言語学的手法を用い、調査し、検討する重点におくことになった。対照研究を通じて、日中両言語の名詞性形容詞構文(Denominal Adjective Construction)の意味構造が明らかにされ、より言語学的意義を持っていると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本語に関しての研究はやや遅れているが,中国語に関しての研究はおおむね進んでいると言える。 (1)中国語のデータをランダムに収集し、分析した。北京語言大学によって開発されるBCCコーパスを用い、①「程度副詞+名詞」例えば“很”、“太”、“非常”、“有点儿”と共起する名詞述語を抽出した。②「名詞コピー」たとえば“比X還X”のような、十分な述語コンテクスを与えるデータを収集した。 (2)データ分析の結果、中国語においては、名詞が形容詞化する意味的条件は、不均一性及び階層性を持つことが分かった。つまり、①“小气”、“伝統;”、“青春”といった名詞は、否定を表す“不”による修飾ができ、すでに完全に形容詞化し、名詞と形容詞両方の品詞機能を兼務する。②“中国”、“女性”、“哲学”といった名詞は、“很”、“太”、“非常”、“有点儿”などの程度副詞による修飾ができ、臨時的に形容詞として使われることが可能である。③“警察”、“同胞”、“老百姓”といった名詞は“比X還X”のような述語コンテクスにのみあらわれ、完全な名詞であるとしか言えない。要するに、中国語の場合、③、②、①という順で名詞が形容詞化する条件が緩く、形容詞化する程度が高くなるという仮説を提案することができよう。 (3)仮説提案を検証するためのインタービュー調査を実施した。仮説提案に妥当性を持つかどうかを検証するために、これまでに中国語母語話者を対象に、4回にわたりアンケート調査を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日中両言語における名詞の形容詞化現象をめぐり、日中両言語の名詞性形容詞文の意味構造を究明し、最終的には、名詞の形容詞化の一般化を目指しているが、この目標を達成するために、今後、下記のとおり、研究課題を進めていく。 (1)中国語の仮説提案を最終的に検証するため、より大規模なアンケート調査を実施する予定である。 (2)日本語のデータ収集・整理。日本語では、どんな名詞語幹が形容詞接尾辞「っぽい」と共起するのかを究明するために、国立国語研究所によって開発される「少納言」「中納言」を用いて、①「名詞語幹+っぽい」の実例を集め、両者が共起可能な例と不可能な例を比較する。さらに、②「名詞語幹+的」の実例を集め、両者の共起可能な例と不可能な例を比較する。そのうえで、日本語における仮説提案をだす。その後、日本語のネイティブスピーカーに対してアンケート調査を実施し、仮説提案の妥当性を検証する。 (3)対照言語学的手法を用い、日中両言語における名詞の形容詞化を比較する。 (4)最後に得た結論を雑誌論文にまとめ、投稿する。
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