2020 Fiscal Year Annual Research Report
中島敦を中心とする大日本帝国期日本文学の実証的、理論的研究
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19F19783
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
星埜 守之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10238743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SENICA KLEMEN 東京大学, 総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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Keywords | 比較文学 / 日本近代文学 / 中島敦 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該期間には、パラオ、韓国における資料調査を予定していたが、コロナ禍により海外出張は断念せざるを得なかったため、主に文献研究と国内各所での調査をおこなった。理論的な研究としては、とくにオクスフォード大学教授のElleke Boehmerの植民地文学及びポストコロニアル文学研究の視点に注目し、宗主国における文学作品が間接的にではあれ、植民地支配を強化する諸様態についての理解を深めることができた。また、1990年代の日本における中島敦の再評価において、エドワード・サイードの著書『オリエンタリズム』が果たした役割にも着目して、当時の文芸評論等におけるサイードの受容についての理解にも努め、たとえば、川村湊による、20世紀前半の日本版「オリエンタリズム」、とりわけ、大衆文化における「オリエント趣味」の批判的研究など、90年代の議論の一端を知ることができた。また、国内各所の調査としては、2020年9月に北海道白老町の国立アイヌ民族博物館の視察に行ったことが大きい。北海道開拓は、のちの大日本帝国期の日本の植民地政策の原型のひとつとも言え、中島の文学世界を理解する上でのパースペクティブを拡げてくれた。また、日本の「周縁部」からの眼差しについての考察の一助として、札幌の北海道立文学館、仙台の仙台文学館での調査も行った。11月には、静岡県立韮山高等学校で、高校生向けに研究のプレゼンテーションを行ったことも付け加えたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、南太平洋、韓国での現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって海外調査が不可能になったため、研究方法を文献研究と国内での調査にシフトした。本年度も同様の理由から主に文献研究と国内での調査等を継続したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度から継続して、中島敦の作品の研究、ポストコロニアル理論の研究を継続して行う。当初考えていたパラオ、韓国などの現地調査は、感染症状況に鑑みて困難であると考えられるが、中島敦の同時代の文学、20世紀の日本の歴史、及び現在におけるその表象についての理解を深めるために、日本国内での調査を続行したい。具体的な調査地としては、鹿児島から琉球列島、東南アジアにかけての地域の研究を担う鹿児島大学総合研究博物館、中島敦と同時代に活躍した林芙美子など、鹿児島ゆかりの作家たちに焦点を当てている、かごしま近代文学館、さらには長崎原爆資料館などを予定している。これと同時に、日本の研究者、とりわけ、日本近代詩の研究で知られるエリス俊子氏などと意見交換をしながら、中島敦論の執筆を進める予定である。また、9月には、スロヴェニアの作家アルマ・カーリンの日本表象に関する論文を、リュブリャナ大学アジア研究学科の紀要に掲載予定である。
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