2019 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジアにおける無形文化遺産の現状と課題の検証 : ラオスを事例として
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19H00020
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Principal Investigator |
小田島 理絵 早稲田大学, 文学学術院, 非常勤講師
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Project Period (FY) |
2019
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Keywords | 文化人類学 / 無形文化遺産 / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、無形文化遺産の概念と保護活動の主流化を目指すラオス人民民主共和国(以下ラオス)を事例として、東南アジアの無形文化遺産の現状と今後の課題を検証した。無形文化遺産保護は、文化的多様性を内包する東南アジアとラオスにおいて文化的エンパワメントの試みとなる。そこで現状把握のための基礎調査を実施し、文化遺産保護に関する議論の深化を目指した。 調査地は、ラオスの文化遺産保護区域(チャムパーサック県)とした。建造物の文化遺産保護の実績を持つこの調査地では、有形・無形文化遺産を統合した文化遺産の再概念化とマネージメント構築を目指す近年の国際的潮流を反映して、無形文化遺産の概況把握が必要とされていた。研究代表者は、構造化された質問項目を設けた調査票を作成、調査区域内全村落の約38%相当の村落で村長組織に対する聞き取り調査を実施した。調査地独特の文化諸相の看過を防ぐため、また調査地で今後重要になると考えられる住民参加基盤の無形文化遺産保護に資するため、対話を重視した調査を行った。 調査の成果として、工芸・上演・演奏・伝承・信仰・祭礼・民俗知識等に関わる知識・表現・慣習・技術・産物等を代表とする調査地の無形文化は、主に地縁関係や個々人の社会的ネットワークを通して共有、実践、継承されていることが分かった。また年齢やジェンダー等、個人の文化社会的属性が無形文化の分布に影響を及ぼしている。ラオスを事例とした東南アジアの無形文化遺産に関わる今後の課題として、経済開発と文化保護の二項対立が見られること、それが無形文化遺産保護への住民の自発的参加を困難にする可能性があること、また個人のネットワークや村落を超えた国家単位の公共財としての遺産という概念の確立の難しさ、場と脈絡を価値の決定因子とする無形文化の保存・活用・エンパワメントの場として生活と断絶しない集会的場の構築の重要性が浮上した。
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