2019 Fiscal Year Annual Research Report
Psycho- Biological Basis of Pain
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19H00633
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
越川 房子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80234748)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 悦朗 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80203131)
岡 浩太郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10276412)
堀 正士 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10238777)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / Quality of Life / マインドフルネス / オキシトシン / ケラチノサイト / ネットワーク可視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は各員の領域からの知見の統合を見据えた基礎研究を進めた。 越川は、心理尺度を用いた質問紙調査を行い、痛みの慢性化に関係するのは、従来知られていた痛みに対する破局的認知よりむしろ感覚刺激に対する鈍感さであり、これらの心理的要因に対するマインドフルネス特性の影響が注意と態度の側面で異なることを見出した。感覚刺激に対する態度の影響を直接的に検討するため,痛みに類する微弱電気刺激を用いた皮膚感度測定実験を行い,能動的な観察が回避閾値を上げ,マインドフルな態度(好奇心)が知覚閾値を下げる可能性を見出した。この知見を慢性痛保持者で検討するための越川・堀で実験協力者募集のための協議を行った。 伊藤は、痛み時ならびに軽度接触刺激法による痛み緩和時において、被験者の前頭前野の近赤外トポグラフィー(NIRS)データを取得することに成功した。また、非侵略的な研究手法として経頭蓋磁気刺激装置を導入したが、コロナ禍の影響で被験者が集められず、この装置を適用したNIRS 測定には至っていない。一方で、軽度接触刺激によってTRP チャネル活性化後にオキシトシンが産生・分泌されるという作業仮説に関しては、それを証明するための第一歩として、ラットの末梢神経細胞での免疫細胞化学応答を、世界で初めて観測することができた。 岡は、慢性的な痛みのメカニズムを主にイメージング技術を利用して調べる系の構築を進めた。ヒトケラチノサイトに様々な刺激を与えた際の細胞応答を細胞内CaおよびMgイオンのイメージングにより調べたところ、細胞内Mgイオン濃度変化は酸化ストレスにより誘導された。酸化ストレスはCaイオンとは異なる時間変化で細胞内Mgイオン濃度を上昇させるが、このMgイオンはATPからの遊離と思われる。またヒト末梢神経系を歯髄幹細胞から分化誘導することを進め、神経細胞およびグリア細胞様に応答する細胞の分化に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
慢性痛における心理学的要因としては,従来の認知行動療法がターゲットとしていた破局的な認知ではなく感覚刺激への捉え方がより重要であることが見出され,この感覚の捉え方の変容にマインドフルな態度が奏功することも実験的に明らかにすることができた。しかしながら,この知見を慢性痛保持者に直に適用するまでには至っておらず,慢性痛保持者を対象とした検証が次年度に持ち越された。 生物学的要因については,前頭前野のNIRSのデータ取得には成功し,ラットの末梢神経細胞においてオキシトシンの免疫細胞化学的観察に成功した。これはまさに世界初の研究成果であり、今後の発表時に大きな反響を呼ぶことが期待される。一方で、未達な点は、経頭蓋磁気刺激装置を適用したNIRS測定である。未達の理由は、2019年度に本装置を購入したものの、コロナ禍のお陰で被験者の募集を中断せざるを得ず、2020年度に持ち越しの形となったからである。 細胞レベルの知見としては,ヒト末梢での痛みとその緩和を明らかにするためには、皮膚細胞と神経細胞の共培養系の構築が必須である。そのためヒトケラチノサイトとヒト末梢神経系の構築を進めているが、前者に関しては細胞内の種々のイメージングが可能であることがわかり、また後者に関しては歯髄幹細胞からの分化誘導に目処がついた。この両者の相互作用を共培養系の確立により明らかにする方向性を示すことができたことで当初の目的は達成できたものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
越川・堀は、過年度に十分にアプローチできなかった慢性痛保持者を対象とした検証をすすめる。また,慢性痛の獲得過程における心理的要因の影響を明らかにするため,健常者を対象に筋肉痛の遅延に注目し,経験サンプリングを併用した継時的な測定を行う。 伊藤は、前述の通り、まずは未達の経頭蓋磁気刺激装置を適用したNIRS測定を行う予定である。さらには、唾液を用いたオキシトシンの測定法の確立に注力する。そして、ラットの末梢神経細胞におけるオキシトシンの生理応答の解析(イメージング解析と電気生理学的解析を含む)を推進する。 岡は、ヒト末梢神経系の再構築をヒトケラチノサイトとヒト歯髄幹細胞から分化誘導させた神経細胞について引き続き進める。これにより、ケラチノサイトの応答がどの様に神経細胞に伝播する、または伝播しなくなるかを、細胞外で痛みのシグナル伝達に関わるATPとオキシトシンと関係させて調べ、末梢での痛み緩和機構を明らかにする。またこの目的を達成するために、細胞外でのATP濃度、オキシトシン濃度を計測するための新規なイメージングツールの開発も併せて進める。 ただし、2020年度もコロナ禍がいつになったら落ち着くのかが分からない点が懸念材料である。
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Research Products
(13 results)