2019 Fiscal Year Annual Research Report
新しい精密重元素原子データで読み解く中性子星合体の元素合成
Project/Area Number |
19H00694
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 雅臣 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70586429)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
田沼 肇 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (30244411)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中性子星合体 / 原子データ / 重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子星合体からの電磁波放射(キロノバ)の性質を理解するため、中性子星合体からの放出物質における光の吸収係数の系統的な研究を行った。この目的のため、世界で初めて原子番号30-88の元素に対して中性原子から3階電離のイオンまでの網羅的な原子構造計算を行った。その結果、(1)最外殻電子がf殻にあるランタノイド元素の中でも、原子番号が小さい元素はエネルギー準位が低エネルギー側に分布しており、束縛遷移による吸収効率が高いこと、(2) 最外殻電子がd殻にある元素も原子番号が小さい元素ほど吸収係数が高く、先行研究で用いられた鉄の吸収係数では過少評価となることを明らかにした。また、中性子星合体における重元素分布を加味して吸収係数をまとめ、電子割合(Ye)が低い場合 (Ye < 0.2)では吸収係数が 20-30 cm^2 g^-1程度、Ye = 0.25-0.35では3-5 cm^2 g^-1程度、Ye = 0.40では 1 cm^2 g^-1程度となることを示した。この新しいデータを用いて輻射輸送シミュレーションを行い、2017年に観測されたGW170817/AT2017gfoの光度曲線と比較した結果、観測データを説明するには電子割合が高い放出物質と、低い放出物質の両者が必要であることを再確認した。 また、この理論計算による網羅的な原子データの精度を検証するため、ランタノイド元素Erの分光実験に着手した。電子サイクロトロン共鳴型多価イオン源を用いた電荷交換分光実験では、Er4+からEr14+までのイオンビームの生成に成功した。また、新しい低分散分光器を導入し、幅広い領域の発光スペクトルを効率的に取得することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究計画は (1) ランタノイド元素Erの3階・4階電離イオンの原子構造計算を行うこと、(2) 電子サイクロトロン共鳴型多価イオン源を用いた電荷交換分光実験によるErのスペクトル取得、(3) レーザー誘起ブレークダウン分光実験装置の立ち上げであった。 原子構造計算に関しては、Erの計算に着手した際に、より多くのイオンの計算を網羅的に行う手法を構築することができたため、当初の計画を大きく変更して、全元素の原子構造計算を完了させることができた。そのため、原子構造計算は計画以上に進展していると判断している。 電子サイクロトロン共鳴型多価イオン源を用いた電荷交換分光実験では、予定通り分光データが取得できたが、ラインの同定が非常に困難なことが発覚し、原子構造計算のエネルギー準位の検証には至っていない。この点を改善するために、新しい低分散分光器を導入し、実験の高効率化に注力した。レーザー誘起ブレークダウン分光実験装置の立ち上げは計画通りに進んでおり、次年度に分光器を導入して継続的にデータを取得する段階にある。 以上より、計画全体は概ね順調に進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年に観測されたGW170817/AT2017gfoでは、中性子星が合体してから約半日後に電磁波放射(キロノバ)が観測された。それより以前にキロノバを捉えるためには、中性子星合体後1時間程度におけるキロノバの性質の理論的な理解が必要不可欠である。合体から1時間程度では放出物質の温度は100,000K程度と高く、典型的なイオン化状態は10階電離程度である。この時期の現実的なシミュレーションを行うため、これまで行ってきた網羅的な原子構造計算を高階電離イオンまで拡張する。まずは計算が比較的容易なランタノイド元素よりも原子番号の小さい元素に着目し、電子割合が高い放出物質からの初期放射の性質を明らかにする。その結果をGW170817/AT2017gfoの光度曲線と比較し、将来の重力波イベントへの予言を提供する。 また、低階電離イオンの理論計算の精度を検証するために、レーザー誘起ブレークダウン分光実験を行う。幅広い波長域のスペクトルを一度に取得できるよう、電気通信大学にエシェル型分光器を導入し、Erの発光スペクトルの取得を開始する。
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