2020 Fiscal Year Annual Research Report
新しい精密重元素原子データで読み解く中性子星合体の元素合成
Project/Area Number |
19H00694
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 雅臣 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70586429)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田沼 肇 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (30244411)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中性子星合体 / 重元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子星合体からの電磁波放射(キロノバ)の性質、特に合体から一日以内の初期放射の特性を理解するために、高階電離の重元素の網羅的な原子構造計算を行った。2017年に観測された中性子星合体イベントGW170817/AT2017gfoでは、最初の数日の放射では比較的軽い中性子捕獲元素(rプロセス元素)の存在が示唆されているため、rプロセス元素の中で比較的軽いバリウム(原子番号56)までを対象にし、四階電離から十階電離までのイオンの原子構造を網羅的に計算した。この結果を用いて、中性子星合体の放出物質におけるrプロセス元素の不透明度を計算し、合体から一日以内の物理状況に適用できる重元素の不透明度の現実的なデータを初めて提供した。さらに、この新しいデータを用いてキロノバの輻射輸送シミュレーションを行い、GW170817/AT2017gfoの合体から12時間後程度の観測データが、rプロセス元素の放射性崩壊によるキロノバで説明できることを明らかにした。 また、2019年度に行った理論計算による網羅的な原子データの精度を検証するため、ランタノイド元素の一つであるエルビウム(原子番号68)の分光実験に着手している。今年度は、レーザー誘起ブレークダウン分光実験装置のために新たな低分散分光器を導入し、幅広い波長領域のスペクトルを効率的に取得することが可能となった。この新しい分光器を用いて既にエルビウムの発光スペクトルを取得できており、ラインの同定と遷移確率の導出を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究計画は (1) 高階電離の重元素の原子構造計算を行うこと、(2) レーザー誘起ブレークダウン分光実験装置による重元素スペクトルの取得すること、(3) 構築した重元素データを用いた輻射輸送シミュレーションの実施しキロノバの性質を明らかにすることであった。 原子構造計算に関しては、予定通り原子番号56のバリウムまでの元素に対して、三階電離から十階電離までのイオンの原子構造計算を完了することができた。その結果を用いて中性子星合体の放出物質における不透明度を提供することができ、原子構造計算に関しては計画通り進展していると判断している。 レーザー誘起ブレークダウン分光実験では、予定通り新たな低分散分光器を導入し、幅広い波長領域のスペクトルを効率的に取得することが可能となった。既にエルビウムの発光スペクトルを取得できており、ラインの同定と遷移確率の導出を進めている。 輻射輸送シミュレーションでは、上記の新しい元素データを用いて、キロノバの光度曲線の計算を行った。現実的な輻射輸送シミュレーションに基づいて、GW170817/AT2017gfoの初期観測データがキロノバで説明できることを初めて明らかにすることができ、その結果をまとめた論文を出版した。 以上より、計画全体は概ね順調に進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年に観測されたGW170817/AT2017gfoでは、我々の視線方向が極方向に近かったことが分かっており、rプロセス元素の中でも比較的軽い元素が卓越していたことが示唆されている。一方で、合体の赤道面方向には、より重い元素が存在することが予想される。将来の重力波観測ではそのように赤道面から観測されるイベントも期待されることから、そのような場合のキロノバの性質を理解することが必要である。そこで、2020年度に行った高階電離重元素の原子構造計算を、ランタノイドまで含めた全元素に拡張し、重いrプロセス元素を含んだ場合のキロノバの性質を明らかにする。高階電離のランタノイド元素では、既存のデータが極めて少なく、基底状態の電子配置も明らかになっていないことが多い。そこで、まずはそのような元素の基底状態を推定することから始める。 また、レーザー誘起ブレークダウン分光実験装置を用いて、さらにエルビウムの発光スペクトルを取得し、発光線の同定を行う。遷移確率が知られている遷移を用いてボルツマンプロットを作り、遷移確率が知られていない遷移の発光線強度から遷移確率の推定を行う。
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