2020 Fiscal Year Annual Research Report
稍深発地震とスロースリップに対する超臨界水の効果:放射光その場観察実験による検証
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19H00722
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大内 智博 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (60570504)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西原 遊 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (10397036)
雷 興林 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (70358357)
川方 裕則 立命館大学, 理工学部, 教授 (80346056)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 稍深発地震 / スロースリップ / サイレント地震 / 超臨界水 / 断層 / アコースティックエミッション / 放射光その場観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、深さ30-300 kmの沈み込むプレート(スラブ)内部にて発生するスラブ内地震や、その直上にて発生するスロースリップ現象が、超臨界水によって誘発されるのか(あるいは抑制されるのか)どうかを実験的に明らかにすることを目的としている。本年度では、昨年度に引き続きスラブ内浅部の温度圧力条件下(1-3 GPa, 500-1000℃)における含水ハルツバーガイト(カンラン石+斜方輝石多結晶体)や含水ダナイト(カンラン石多結晶体)の変形実験をSPring-8にて行った。その結果、ハルツバーガイトやダナイト試料中に水性流体が存在する場合には、微小破壊音(AE)をほとんど伴わずに断層形成に至ることが明らかとなった。一方、試料中に水性流体が存在しない場合では、断層形成とすべりの一連の過程においてAEが発生することが確認された。以上の結果より、系に水性流体が存在するではAEの発生を伴わない断層すべり(サイレント地震)が起きると結論できる。微細組織観察の結果、断層沿いのガウジに含水鉱物(タルク)が形成されていることが確認されていることから、間隙水圧による断層アスペリティ―の低下や含水鉱物による断層の潤滑化が、サイレント地震の原因であると解釈される。この結果は、国際誌(Contrib. Mineral. Petrol.)に掲載された。 また本年度では、昨年度末にSPring-8に導入したCdTe型2次元半導体検出器と専用の光学系及び制御用ソフトウェアを組み合わせ、「高速岩石強度・歪測定システム」を完成させた。このシステムを用い、高温高圧下(1-3 GPa, 500-1000℃)にて変形するカンラン石の2次元X線回折パターンを露光時間30秒(従来検出器を用いた場合の1/10の露光時間)の撮影条件にて連続撮影することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、「高速岩石強度・歪測定システム」をSPring-8へ導入を完了したことで、高温高圧下におけるカンラン岩試料を用いたルーチンの実験を行えるようになった。高温高圧下における差応力測定に要する露光時間が従来の300秒から30秒へと大幅短縮されたことにより、これまで時間分解能の問題から観察することのできなかった断層形成前の前兆現象(瞬間的な応力降下やAE発生頻度の低下)が観察されるようになってきた。これは、本研究が最終目標に掲げる「大規模稍深発地震発生リスク評価」に結びつく成果となりうるため、研究計画は順調に進んでいるものと評価できる。ただし本年度はコロナ禍のため、SPring-8において当初予定していた実験の半分しか行うことができなかった。そのため海洋地殻岩を用いた一軸圧縮試験は十分に行えていないといったSPring-8における研究計画の遅延や、岩石強度の自動解析ソフトの開発に遅延が生じている。 一方、開発が難航していたAE震源精密決定ソフトの第一版が本年度に完成した(分担者・雷)ことに加え、AE波形のシグナル/ノイズ比の向上に成功した。これらの想定以上の技術的ブレークスルーに加えて、新たに分担者として川方(立命館大)を加えたことによって、広帯域型AEセンサの開発を本年度より開始した。 本年度では、既述のように含水ハルツバーガイトの実験結果を国際誌(Contrib. Mineral. Petrol)にて公表した。この成果は、「超臨界水はスラブ内地震の発生を抑制する」といった本研究独自の仮説を立証した内容となっている。これに加え、マントル遷移層におけるカンラン岩の一軸圧縮試験に関する実験結果を取りまとめ、現在国際誌に投稿中である(Nature Geoscience, in deep review)。以上の成果より、本年度の達成度は総合的にはおおむね順調と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、来年度も引き続き稍深発地震及びスロースリップの発生場の温度圧力条件(600-800℃及び1-2GPa)にて、地震発生場を構成する海洋地殻岩(角閃岩)の一軸圧縮試験をSPring-8に設置のD-DIA型変形装置を用いて行う予定である。超臨界水が系に加わり、非排水条件となることでAE発生が抑制されることは本研究によるこれまでの成果で明らかとなっている。これは、超臨界水によって断層の安定すべりが卓越することを示唆する。安定すべりの場合には間欠的な応力降下やAE発生頻度の低下を伴わないものと期待される。そのため来年度では、「高速岩石強度・歪測定システム」を活用することによって、それを実験的に証明することを目指す。一方、超臨界水が系に存在しない排水条件下では、地震発生をもたらす断層の不安定すべりが卓越するはずである。そのような不安定すべりに固有の前兆現象を実験的に特定することを目指す。 なお全国におけるコロナ禍の影響により、来年度も引き続きSPring-8における実験が制限される可能性が高い。来年度では可能な範囲でSPring-8での実験計画を進める予定ではあるものの、やむを得ずSPring-8での実験を部分的に延期する場合には、1)「CdTe型2次元半導体検出器」に特化した応力解析用ソフトウェアの改良や、2)AE測定におけるハードウェア技術のさらなる向上(特に広帯域型センサの導入)を代替的に行う予定である。1)については、当初の予定通りに大内と西原が開発を進める。2)については、川方と大内が開発を進める。
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Research Products
(2 results)