2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H00824
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
乾 晴行 京都大学, 工学研究科, 教授 (30213135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸田 恭輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20354178)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低温変形能 / マイクロピラー / 降伏応力 / サイズ依存性 / 転位核生成 / 臨界体積 / 脆性材料 / 転位 |
Outline of Annual Research Achievements |
Fe2Nbラーベス相単結晶は、バルクでは変形開始温度が1000℃を超えるものの、ミクロンサイズの試験片では室温でも変形が可能で、数GPaオーダーと非常に高い応力で活動する複数のすべり系があり、FCC鉄と共存する場合、Fe2Nb相厚さが薄ければ10%もの大きな歪量まで変形が可能であることを見出した。このような脆性材料における低温変形能および界面誘起塑性変形能はバルクでは観察できない新規な力学物性であり、本研究では「転位の核生成にはある臨界体積が必要で、その大きさはバルクでの変形開始温度および低温変形能が出現する臨界試料サイズと相関がある」との仮説のもと、CRSSおよびその歪速度依存性の試料サイズ依存性の実測から、転位生成の臨界核サイズ、界面誘起塑性変形能発現の脆性相臨界厚さおよびその相関関係の解明を試みている。この転位核生成の臨界体積はバルク試料では評価し得ない新規な力学物性パラメーターで、耐熱鉄鋼材料の脆化抑制やパーライト鋼の更なる高強度化など応用開発に有用な情報も抽出を目指している。具体的には、Fe2Nbラーベス相、FeCrシグマ相、Fe3Cセメンタイト相脆性金属間化合物相そのものとオーステナイト相、フェライト相との組み合わせの2相材料について低温変形能および界面誘起塑性変形能の研究を進めている。すでに上記3つの脆性金属間化合物相(特にFeCrシグマ相、Fe3Cセメンタイト相化合物)そのものの低温変形能についての研究が進展しており、すべり系およびそのCRSSの同定が終了しつつある。なかでもFe2Nbラーベス相化合物で低温変形能が最も低く、バルクでの変形開始温度と臨界試料サイズと相関が証明されつつある。また、2相材料の変形能改善に関する知見も蓄積されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度、主として研究を行ったシグマ相金属間化合物は、オーステナイト系ステンレス鋼やCrを含む耐熱鋼、Ni基超合金などに、長時間使用中に析出し、材料を脆化させる脆化相として知られている。この脆さの原因は複雑な結晶構造(カゴメ原子層を含む正方晶系構造)に起因することは明白である。しかし、シグマ相金属間化合物がどの程度、なぜ、脆いのかについては全く明らかではない。この金属間化合物相がバルク状態では全く塑性変形することがないためである。しかし、ミクロンオーダーのマイクロピラー試験片では、低温変形能を示し広範囲の結晶方位範囲で1.5~2 GPa程度の臨界分解せん断応力(CRSS)を伴って室温でも塑性変形が可能である。活動するすべり系は4種類確認された。これら4種類のすべり系のすべり面ですべりに伴う原子の重なり体積を計算し転位分解の可能性を考察した。例えば、{100}すべり面上では[001]方向には重なり体積には準安定な領域は見いだせないが、<010>方向にはほぼ中央に重なり体積が小さくなる準安定な領域が見いだせる。このことは、{100}[001]すべりを担う[001]転位は分解することなく完全転位として運動するものの、{100}<010>すべりを担う<010>転位は2本の部分転位に分解して運動することを意味する。また、他の2つのすべり系についても、転位は分解することなく完全転位として運動することが予測できた。これらの結果は透過電子顕微鏡を使った転位観察ですべて実証された。これら4 つのすべり系の活動応力CRSSはいずれもGPaオーダーと高いが、その試験片サイズ依存性は非常に小さい。そのためCRSSを平均値として評価すると、活動すべり系のCRSSはすべりを担う転位のバーガースベクトルの大きさとかなり相関しているが、重なり体積最大値との相関はそれほど高くないことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
{100}[001]すべりは4つのすべり系の中で最もCRSSが低く、広い結晶方位範囲で活動する。このすべりを担う[001]転位は分解することなく完全転位として活動するが、原子分解能の電子顕微鏡法によりこの転位芯を観察すると、いわゆるZonal転位と呼ばれる形態で運動していることが明らかとなった。この転位はシグマ相化合物と同じ結晶構造を取るβウラニウムでその存在が提唱された転位である。シグマ相化合物でこれを説明すると、六角原子配列を伴うカゴメ層が(001)面を形成し、互いに[001]軸周りに90°回転した2種のカゴメ層が[001]軸方向に積層した結晶構造であるため、転位のバーガースベクトルがこの(001)カゴメ層と直交する場合、すべり面上下で2種のカゴメ層がすれ違い大きな抵抗となるため、カゴメ層の6角網目構造を単位としてそのZone内で回転を起こし、このような原子の協調運動のもと転位の運動が起こるというものである。次年度以降この詳細を突き詰めていく方針である。幾何学的には転位のバーガースベクトルがこの(001)カゴメ層と直交する{110}[001]すべりでもZonal転位が観察されるはずである。興味深いのは、Zonal転位の活動により生じると考えられるこの2つのすべり系でCRSSが他に比べて低いことである。このようなカゴメ層の6角網目構造の回転を伴う原子の協調運動のもとでの転位運動が有利なことは、シグマ相化合物の変形能改善に向けて重要なポイントとなると考えられる。シグマ相が鉄鋼材料やNi基超合金の悪名高い脆化相であるのは、何よりCRSSが1.5~2GPaと高いことにあるが、Zonal転位はCRSSを低減するのに重要なメカニズムであり、鉄鋼材料やNi基超合金の延性改善に向けてこの6角網目構造の回転を伴う原子の協調運動についてさらに研究を進めたい。
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Research Products
(34 results)