2019 Fiscal Year Annual Research Report
高耐熱・高強度スーパーエンプラナノファイバーを作る
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19H00831
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
堀田 篤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30407142)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 知貴 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 助教 (00754730)
黒川 成貴 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (50837333)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スーパーエンジニアリングプラスチック / ナノファイバー / 複合材料 / 耐熱性 / 表面改質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ポリマー材料の中でも高耐熱性、高強度であるスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に着目し、そのナノファイバー化に向けた基盤研究を実施している。具体的な研究内容としては、軟化温度が高く、ナノファイバー直径が小さく、弾性率が高いスーパーエンプラナノファイバー(SEnF)を作製することである。 当該年度においては、スーパーエンプラであるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のエレクトロスピニング法(ES法)によるナノファイバー化のための溶媒選定とその最適化を行った。耐薬品性が極めて良好なPEEKは、その溶液化が困難である。そのため、これまで材料の溶液化を必要とするES法においては、適切な溶媒が無いことが課題であった。 はじめに、単一溶媒に対するPEEKの溶解性試験を実施した。ジクロロ酢酸を基準に、カルボキシ基を有しながら構造が類似するトリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸を溶媒とした。PEEKと各溶媒を混合し、PEEKの溶液濃度が5% (w/v)となるように調製して、各溶媒の沸点の10℃以下の温度で加熱撹拌を試みた。加熱撹拌後の沈殿物の有無によって溶解性を判断した結果、185℃のジクロロ酢酸にのみPEEKが適切に溶解することがわかった。 つづいて、ジクロロ酢酸は沸点が高すぎたため、沸点を低くするために2種類の溶媒を混合した混合溶媒を使用して、PEEKの溶解性試験を実施した。PEEKはジクロロ酢酸に溶解したため、ジクロロ酢酸に溶解したPEEK溶液ともう一方の溶媒を9:1の体積比の割合で混合させて溶解性試験を実施した。その結果、溶媒としてジクロロ酢酸に溶解したPEEK溶液にトリフルオロ酢酸を添加した場合にのみ、沈殿物が生じず、PEEKが溶解することがわかった。以上より、PEEKのナノファイバ化に向けて用いる溶媒を選定し最適化することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スーパーエンプラの中でも特に高い耐熱性(融点:340°C)と機械的強度(弾性率:3.5 GPa)を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のナノファイバーをエレクトロスピニング法(ES法)によって作製するにあたり、研究計画目標においては、その作製を可能にするためのPEEK溶媒を選定すること、としていた。そこで、PEEKが溶解する溶媒候補として、まずはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸を選定して溶解試験を実施してきた。その結果、単一溶媒においては185℃のジクロロ酢酸にのみPEEKが溶解することがわかった。さらに進んで、溶媒候補となった2種類の溶媒を混合させた混合溶媒においては、ジクロロ酢酸とトリフルオロ酢酸の体積比が9:1の割合で混合された時、PEEKが適切に溶解することがわかった。これより、スーパーエンプラであるPEEKをナノファイバ化する手法として用いたES法において、適切に使用できる溶媒はジクロロ酢酸単一溶媒、さらにはジクロロ酢酸とトリフルオロ酢酸の混合溶媒であることがわかった。このことより、PEEKをナノファイバ化するための当初のES法の課題点であった「溶質の溶液化」がうまくいったことがわかる。また、これら2つの溶液は、溶液粘度や揮発性が異なる。そのため、2つの溶液を使用すれば、ES時の作製パラメータを大きく振れることで、さまざまな角度からES法を実施できるようになり、今後のナノファイバ作製の実現可能性が高まったといえる。以上より、スーパーエンプラであるPEEKのナノファイバー作製に向けて、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これより、スーパーエンプラの中でも特に高い耐熱性(融点:340°C)と機械的強度(弾性率:3.5 GPa)を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のナノファイバーをエレクトロスピニング(ES)法によって実際に作製することを目指していく。具体的には、① PEEK溶液の内部構造解析、② 溶液条件をパラメータとするES法によるPEEKナノファイバーの作製、③ 装置および作製環境条件を作製パラメータとしたES法によるPEEKナノファイバーの細径化および均一化、という流れで研究を進める予定である。①では、前年度の研究成果により、PEEK溶媒の候補として、単一溶媒であるジクロロ酢酸と混合溶媒であるジクロロ酢酸・トリフルオロ酢酸を使用する。そこで本年度は、PEEK溶液の微細構造解析を目的にしたX線散乱測定または中性子散乱測定等を実施し、定量評価を試みる予定である。②では、PEEK溶液を用いてES法によるPEEKナノファイバーの作製を試みる。具体的には、ES法を実施する際に、ナノファイバーの形状に影響を及ぼす溶媒種、さらに濃度などのパラメータを変化させて、PEEKのナノファイバーの作製条件を最適化する。また、ファイバー形成の判断には、走査型電子顕微鏡(SEM)による微細構造解析およびモルフォロジーの解析を実施する。③では、装置および作製環境・雰囲気条件をパラメータとして、②で作製したPEEKナノファイバーの細径化および均一化を試みる。具体的には、②にてファイバー化できた溶媒種や濃度において、ES時の電圧や湿度などの作製条件パラメータを変化させ、微細で均一なナノファイバーとなる作製条件を探る。SEM画像より、PEEKナノファイバー直径のヒストグラムを作ることで平均直径を算出する。さらに、示差走査熱量計を用いることで、PEEKのナノファイバー化による熱物性の変化をみる。
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