2021 Fiscal Year Annual Research Report
高耐熱・高強度スーパーエンプラナノファイバーを作る
Project/Area Number |
19H00831
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
堀田 篤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30407142)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 知貴 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 助教 (00754730)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スーパーエンジニアリングプラスチック / ナノファイバー / 複合材料 / 耐熱性 / 表面改質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ポリマー材料の中でも高耐熱性かつ高強度であるスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に着目し、そのナノファイバー化に向けた基盤研究を実施している。具体的な研究内容は、耐熱温度が高く、ナノファイバー直径が小さく、弾性率が高いスーパーエンプラナノファイバー(SEnF)を作製することである。 当該年度では、昨年度に引き続き、スーパーエンプラの1つであるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に着目し、PEEKからスルホン化PEEK(SPEEK)への化学改質、エレクトロスピニング(ES)法によるSPEEKのナノファイバー化、SPEEKからPEEKナノファイバーへの脱スルホン化、の3つのステップで、PEEKもしくはその誘導体のナノファイバー化を試みた。 はじめに、PEEKを濃硫酸中で加熱撹拌することで、PEEKからSPEEKへの化学改質を施した。加熱攪拌において、温度、時間を適切に制御することで、スルホン化度を制御できた。その結果として、スルホン化度を制御したSPEEKは、汎用性溶媒に溶解することがわかった。 つづいて、汎用性溶媒を用いてSPEEKのナノファイバー化を実施した。ジメチルホルムアミド(DMF)にSPEEKを溶解したSPEEK/DMF溶液を用いて、ES法によるナノファイバー化に取り組んだ結果、平均直径で約30 nmのSPEEKナノファイバーが得られた。 最後に、リン酸中で加熱処理することで、SPEEKからPEEKナノファイバーを再生(脱スルホン化)した。脱スルホン化により、スルホン化度が約20%減少し、熱重量減少温度が約80℃向上したことから、部分的にではあるがPEEKナノファイバーが出来ていることがわかった。 以上より、スーパーエンプラの1つであるPEEKおよびその誘導体のSPEEKにおいて、平均直径400 nm以下のナノファイバーを作製できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スーパーエンプラの中でも特に高い耐熱性(融点:340℃)と機械的強度(弾性率:3.5 GPa)を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のナノファイバーをエレクトロスピニング(ES)法によって作製するにあたり、研究計画目標においては、より多量に、そして、より無害な溶媒を用いて作製できるかを見極める、としていた。そこで、(1)PEEKからスルホン化PEEK(SPEEK)への化学的改質(スルホン化)、(2)ES法によるSPEEKのナノファイバー化、(3)SPEEKナノファイバーからPEEKナノファイバーへの再生(脱スルホン化)、の3つのステップで研究を実施してきた。より具体的には、(1)濃硫酸中での加熱撹拌条件の制御により、スルホン化度を制御したSPEEKを作製し、(2)汎用性溶媒を用いて溶液粘度が異なるSPEEK溶液を作製し、ES法におけるナノファイバー作製条件(溶液濃度、溶液流量、電極間距離、印加電圧など)を最適化し、(3)リン酸中での加熱処理条件の最適化により、再生条件を決定することができた。その結果、平均直径で約30 nmのSPEEKナノファイバーが得られた。また、再生したPEEKナノファイバーでは、熱重量減少温度が約340℃に達した。このことより、スーパーエンプラのPEEKおよびその誘導体のSPEEKにおいて、平均直径400 nm以下のナノファイバーを作製することができた。この化学的改質と再生をともなうPEEKのナノファイバー化に関する知見は、他のスーパーエンプラにも適用できる可能性が高く、各種スーパーエンプラナノファイバー(SEnF)作製の実現可能性を高められたといえる。以上より、スーパーエンプラの特に高い耐熱性と機械的強度を有するPEEKにおいて、そのナノファイバー化を達成したことで、SEnF作製およびその応用検討に向けて、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
スーパーエンプラの中でも特に高い耐熱性(融点 340°C)、機械的強度(弾性率 3.5 GPa)を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に加えて、さらに高い耐熱性(融点 373°C)、機械的強度(弾性率 3.4 GPa)を有するポリエーテルケトン(PEK)のナノファイバーを、エレクトロスピニング(ES)法により作製することを目指す。また、PEEKおよびPEKが有する高い耐熱性と機械強度を維持しながら、化学的改質のためのプロセスを必要とせずに溶液化してナノファイバーを作製するアプローチを模索する。具体的には、(1)PEEKおよびPEKの溶液作製、(2)ES法によるPEEKおよびPEKのナノファイバー化、(3)PEEKおよびPEKナノファイバーの物性評価、という流れで研究を進める予定である。(1)の溶液作製では、フッ素系溶媒を用いて溶解度および溶媒-ポリマー分子間の反応性をみる。溶媒-ポリマー間反応の有無をみるには、溶液化前後におけるPEEKおよびPEKの化学構造を分析する。(2)のES法によるナノファイバー化では、PEEK溶液およびPEK溶液を作製し、(1)で決定した溶解度の範囲内で溶液濃度を変化させ、粘度を調整し、ES法を実施する。ES法においては、ES装置の装置条件(印加電圧、溶液流量、電極間距離等)を最適化する。(3)のPEEKおよびPEKナノファイバーの物性評価においては、特に熱物性に着目し、ナノファイバー形状のPEEKおよびPEKのガラス転移温度、融点、熱重量減少温度を分析する。あわせて、融解吸熱量から結晶化度を算出し、より詳細な微細構造にせまる。さらに可能であれば、PEEKおよびPEKナノファイバーを用いたナノフィルターやナノ複合材料の作製方法と応用性を検討する。
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