2020 Fiscal Year Annual Research Report
探針増強電場を用いた単一分子の非線形および時間分解分光方法論の開拓
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19H00889
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
竹内 佐年 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (50280582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 単一分子 / 走査型トンネル顕微鏡 / フェムト秒パルス / 非線形分光 / 局在表面プラズモン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度には走査型トンネル顕微鏡による極低温下での安定した撮像のための調整をおこなった後、トンネル接合部位から発せられる極微弱光を効率よく検出するための光学系の構築を進めた。これにより、銀探針と銀基板から構成されるナノギャップに誘起された局在表面プラズモンによる発光のスペクトルを高い感度で観測することに成功した。 具体的にはまず、トンネル電流の実時間波形やその周波数解析結果に含まれるノイズピークが液体窒素のわずかな沸騰によるものと特定した。タンク内の減圧により一時的な過冷却状態を作ることでこの沸騰を抑え、またタンク内の液体窒素を枯らさないようにすることで、トポ信号に含まれるノイズを数 pmレベルに維持できることがわかった。これらのノウハウを得たうえで、トンネル接合部位からの発光を検出するための光学系の構築を進めた。清浄化したAg(111)単結晶試料の表面を銀の探針を用いて撮像し、原子レベルで平坦な表面を確認した。数 V程度のバイアス電圧を印加したところ、ナノギャップ領域からトンネル電流に誘起された発光を確認した。この発光を頼りにして探針近傍のレンズの位置を調整して発光を取り出し、分光器と液体窒素冷却CCDカメラで検出した。最適化された装置条件のもと、バイアス電圧を変えながら発光スペクトルを測定したところ、バイアス電圧が約1.5 Vで900 nm付近に微弱な発光が観測され始め、その後、バイアス電圧を3 Vまで増加させると発光強度も増加し、同時にピーク波長が短波長側にシフトした。解析により、発光スペクトルの短波長端のエネルギーはバイアス電圧に対応するエネルギーに等しいことがわかった。この結果は、トンネル電流として注入された電子のエネルギーの一部が光子に変換され発光として観測されていると理解できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単一分子レベルでのトポ像の撮像や繰り返しの光照射を視野に入れた場合、液体窒素温度での撮像・計測におけるドリフトやノイズの抑制は極めて重要である。観測室タンクに液体窒素を注入してしばらく時間が経過した後においても、トンネル電流の実時間波形やその周波数解析結果には数百Hz帯の特定のノイズピークが見られることがあったが、検証実験を続けた結果、それが液体窒素のわずかな沸騰によるものと特定できた。また、一時的に過冷却状態を作ったあと冷却し続けることで、トポ信号に含まれるノイズを数 pmレベル以下に維持できることがわかった。これにより、安定なナノギャップ領域の維持と精密な撮像を可能とするノウハウを見出すことができた。 トンネル接合部位からの発光を検出するための光学系の構築においては、極めて微弱な信号強度が予想される分子発光ではなく、Ag(111)単結晶基板と銀探針で構成されるナノギャップ領域からトンネル電流に誘起されて発する発光を利用したことで、順調に進めることができた。探針近傍のレンズの位置をピエゾステージにより遠隔で調整し、探針直下の微小な発光点の像を分光器の入射スリット上に正確に結ぶことができた。これにより、発光強度が最大となる波長でおよそ1000 counts/3min程度に達する大きい信号強度を得ることができたため、検出光学系は十分に最適化できたと考えている。この光学系を用いることにより、銀のナノギャップ領域から生じる発光のスペクトルおよびそのバイアス電圧依存性が十分な信号対雑音比と安定性で測定できたため、当初の計画にそって研究を遂行できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに構築してきた光学系を用いて、走査型トンネル顕微鏡の探針の直下に置かれた単一分子からの発光の観測に本格的に取り組む。このために、単一の試料分子の研究に適した試料基板を作成し、それを分子発光の観測につなげていく。具体的にはまず、Ag(111)単結晶基板を清浄化し、原子レベルで平坦であることを撮像により確認する。発光分光においては、金属に直接的に吸着した分子の励起エネルギーが基板側にすみやかに逃げるため、発光が消光されやすい。これを避け分子本来の発光を効率よく検出するため、銀基板の上に数層分のNaClなどを緩衝層として吸着させ、その上に試料分子を載せる予定である。平均してサブモノレイヤー程度の被覆率をめざして最適な蒸着温度や蒸着時間を探り、その結果、1~3層程度の緩衝層が吸着した領域を見出すことを目標とする。これに続き、緩衝層の上に試料分子を十分に低い濃度で吸着させる。銀のプラズモン発光(500~900 nm)と同じ波長領域での発光が期待される多環芳香族分子(特にペンタセンやペリレン誘導体)を試料として選び、試料基板の作成を進める。最終的に、緩衝層の上に単一または少数個の試料分子が吸着したサイトを実際の撮像で確認する。これらの単一分子からのトンネル電流に誘起された発光を観測するために、銀探針を分子の真上に移動させ、数V程度のバイアス電圧を印加する。分子からの発光をレンズにより平行光としてチャンバー外部に取り出し、分光器と液体窒素冷却型CCDカメラを用いてスペクトル分析する。バイアス電圧の大きさ、緩衝層の有無、その厚み、試料分子の密集度(単一か配列しているか)や配向などの様々な条件を変えながら発光スペクトルを測定し、発光機構や分子の置かれた環境による違いを検討する。
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Research Products
(6 results)