2020 Fiscal Year Annual Research Report
Organic synthesis by means of breaking aromaticity via reduction
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19H00895
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
依光 英樹 京都大学, 理学研究科, 教授 (00372566)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 芳香環破壊 / 還元 / リチオ化 |
Outline of Annual Research Achievements |
チオフェン類を基質として単体リチウムによる還元を検討したところ、チオフェン環内の2つの炭素ー硫黄結合の切断、すなわち脱硫を伴った還元的ジリチオ化が進行することを明らかにした。中間体として生じる1,4-ジリチオ化体は各種二官能性求電子剤でワンポットで捕捉することでエキゾチックヘテロ環を合成できた。具体的には、ジクロロシラン、ジクロロゲルマニウム、アリールジメトキシボラン、ジクロロフェニルホスフィンオキシドを求電子剤として、それぞれ、シロール、ゲルモール、ボロール、ホスホールオキシド類が得られた。これらのヘテロ環化合物のなかでもラダー型構造を有する分子群は強い蛍光発光を示すこともみつけた。また、一ヘテロ原子ユニットだけでなく、二炭素ユニットとしてヘキサフルオロベンゼンやアルキンを挿入してベンゼン骨格を組み上げることもできた。新形式の芳香環メタモルフォシスとして極めて意義深い。 この研究の途上で、シクロプロパンの還元的な開環による1,3-ジボリルアルカンの発生、アリールスルホニウム塩の還元的亜鉛化による有機亜鉛種の発生、芳香環メタモルフォシスによるジヘテロ[8]ヘリセン類の網羅的合成も発見し、還元的な手法の有用性を副次的に示すこともできた。 芳香環の還元的破壊に基づく有機合成に関する研究が認められつつあり、国内外の学会でオンラインではあるが招待講演を行った。また、台湾化学会より論文投稿の依頼があり、芳香環の還元的破壊に関する総合論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画であるボリル銅を用いるボリン合成とフランへの原子挿入に関しては未だ完成には至っていない。還元剤を工夫することで強力に研究を進める準備が整ったので、次年度には良い結果を報告できると期待している。 一方で、事前の計画を先取りする形で、脱硫黄型原子置換反応を開発することができた。さらには拡張π電子系分子の創出にも成功しており、予期せぬ形で研究の進展が見られる。 研究は計画通りに進んでいるとはいえないものの、それに匹敵する成果をあげており、概ね研究は順調であると言って良い。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の二つのテーマを並行して進める。1)有機金属種を用いた炭素導入法開発:炭素求核剤の付加-脱離による環開裂を検討する。有機リチウムの単独付加やロジウムや銅触媒による有機金属化合物の付加について重点的に検討を行う。溶媒効果と配位子効果の影響は重大であり、前者についてはエーテル系溶媒を中心に、後者についてはリンおよびカルベン配位子を中心に精査する。基質である芳香環上の置換基効果は大きく制限が多いと予想されるが、可能な限り一般性の高い反応を追求する。2)これまでに達成したチオフェンの還元的ジリチオ化を経る脱硫黄型原子置換をもとに、より大型の拡張π電子系分子に展開する。具体的には、申請者が独自の手法で合成したジチアヘリセンの硫黄原子をホウ素に置換し、ジボラヘリセンを簡単に合成する。また、チアサーキュレンやナフタレン融着ベンゾビチオフェンを原料としたホウ素置換を行う。いずれも最先端p型有機半導体から未踏n型有機半導体を合成する斬新な変換となる。これら生成物の光・電子物性も調査し、有機半導体としての優れた特性を追求する。
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