2020 Fiscal Year Annual Research Report
環状混合ソフトマテリアルの絡み合い制御による超ゴム弾性発現の分子論的解明
Project/Area Number |
19H00905
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
陣内 浩司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20303935)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 敏文 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80291235)
萩田 克美 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 講師 (80305961)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環状混合ソフトマテリアル / 環状高分子 / 分子トポロジー / 延伸下ナノ構造観察 / 電子線トモグラフィ |
Outline of Annual Research Achievements |
単環状や多環状・かご型などの複雑な分子トポロジーをもつ環状高分子(環状鎖)は、線状高分子(線状鎖)の貫入を許し線状鎖を拘束するため、従来の管模型(レプテーション)で表現される絡み合いとは全く異なる未知の動的挙動を呈する。このような少量の環状鎖を線状鎖に添加した系(環状混合ソフトマテリアル)における「環状鎖の環の大きさや導入量」という系の自由度に関する基礎科学は、理論・シミュレーション・実験のいずれについてもほぼ手つかずの状態で残されてきた。本研究は、多様な分子トポロジーをもつ環状鎖の線状鎖との相互作用を分子論的に明らかにし、この新しい系でのダイナミクスの基本原理の構築を行う。
研究2年目である令和2年度は、初年度である令和元年度に合成を行ったポリジメチルシロキサン(PDMS)の環状鎖から構成される環状混合ソフトマテリアルのモデル系について「その力学測定による動的架橋点(仮説)の検証と超弾性の実現」に取り組んだ。まず、引張試験機による応力-歪み曲線(SS曲線)の測定を行い、環状鎖を添加したことによるSS曲線の変化を確認した。また、「延伸状態下での環状混合ソフトマテリアルの3次元ナノ動的観察と計算機シミュレーションとのデータ同化による環状鎖の分子スケールでのダイナミクスの可視化」についても、電子線に対するコントラスト増強(電子染色)を行わず環状混合ソフトマテリアルの相分離構造を観察する電子顕微鏡手法(位相差法)について検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目(令和2年度)の研究検討項目については、 (i)環状混合ソフトマテリアルの力学測定による動的架橋点の検証、(ii)延伸状態下での環状混合ソフトマテリアルの3次元(3D)ナノ動的観察、に取り組み、十分な成果を挙げることができた。
まず、項目(i)について、PDMS系について、引張試験機による応力-歪み曲線(SS曲線)の測定を行い、環状鎖の有無によるSS曲線の変化を調べた。その結果、環状鎖の添加に従って破断歪みと破断応力が増加する傾向が見られた(超弾性の示唆)。興味深いのは、これらの量が環状鎖の添加量にしたがって単調に増加するのではなく、最大になる最適な添加量が存在するという予備結果である。この傾向は、試料の非平衡状態を反映している可能性もあるため、繰り返し延伸によるヒステリシス観察をする必要がある。また、PDMS系の環状混合ソフトマテリアルについては、試料作製の際に用いる溶媒の乾燥具合の制御が難しく、これがSS曲線測定の試料間の相互比較に大きく影響していることもわかってきた。最終年度には測定の再現性を解決することが必要と考えている。
次に、項目(ii)については、最終年度の延伸3D実験に備え、電子顕微鏡によるゴム系ブロック共重合体の相分離構造観察の予備検討を行った。延伸実験により環状鎖の有無による相分離構造の動的挙動を観察することが目的であるが、この場合、通常の電子染色によるコントラスト増強は行えない(電子染色により構造の固定が起こるため)。そこで、電子顕微鏡の対物レンズの後焦点面に位相板を挿入する「位相差電子顕微鏡法」を構築し、この手法により無染色試料について相分離構造が観察できるかどうか検討を行った。その結果、コントラストは弱いものの、画像処理などを施すことで相分離構造を観察可能であることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を進めるに当たり、おおよそ順調に進んだ2年間の検討結果を引き継ぎ、さらに深化させ総括する。
具体的には、環状混合ソフトマテリアルの力学的挙動の本質を実験的に明らかにすることを目指す。「研究の進捗」で述べたように、PDMS系では、引張試験機による応力-歪み曲線(SS曲線)において、超弾性を示唆する興味深い結果を得ている。しかし、現象の再現は得られるものの、試料作製の条件による測定値のばらつきという問題も出ている。そこで、本研究が、本来、架橋ゴム系を想定していることもあり、今後は、試料作製の再現性に問題が出にくいゴム系に主軸を移す。ゴム系の環状鎖の合成については、合成手法については確立しているものの、力学試験に必要な量を確保する大量合成に関する検討を行っている段階であるので、この完成を急ぐ。ゴム系の環状鎖が実現すれば、これをナノフィラー含有架橋ゴムに添加し、上記のPDMS系と同様、引張試験機によるSS曲線の測定を行い、PDMS系で得られた結果と比較検討を行う。
さらに、ゴム系ブロック共重合体のミクロ相分離構造に、ゴム系環状鎖を添加し、前年度に検討した位相差電子顕微鏡法を用いて、延伸下での相分離構造の変形について3次元観察を行う。ここで得られる相分離構造の変形挙動を、力学測定(SS曲線)や計算機シミュレーションとのデータ同化による環状鎖の分子スケールでのダイナミクスの可視化などを行い、これらを総合的に検討することで、環状混合ソフトマテリアルにおける環状鎖の線状鎖との絡み合い効果を明らかにしてゆく。
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Research Products
(41 results)