2020 Fiscal Year Annual Research Report
Rational control of gene expressions by chemically regulating topologies of nucleic acid structures
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19H00928
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (20593495)
高橋 俊太郎 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (40456257)
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (90550236)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子環境 / 核酸構造 / トポロジー / 遺伝子発現制御 / 人工分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、核酸トポロジーの物理化学的特性の定量的な予測に重要となる、最近接塩基対モデルに基づいたエネルギーデータベースの構築を行った。その成果として、DNA/DNA、およびRNA/DNAの熱安定性に関するクラウディング環境におけるエネルギーデータベースを構築した。このデータベースは核酸化学分野における基礎的な知見になると共に、核酸が関与する生体反応(例えば、ゲノム編集の反応など)の効率を予測するうえでも重要な知見となる。そのため、化学だけでなく、生物学や物理学などの研究者にも著名な学術雑誌で、構築したデータベースを公表した(Proc. Nat. Acad. Sci. U. S. A., 117, 14194 (2020)、Nucleic Acids Res., 48, 12042 (2020))。 核酸トポロジーによる遺伝子発現への影響を「見る」研究の一端として、RNAのグアニン四重らせん構造による相分離状構造体の形成過程を解析した。その結果、クラウディング環境における誘電率の低下が、相分離状構造体の形成速度を加速させることを明らかにした(Biochemistry, 59, 1972 (2020))。また、グアニン四重らせん構造のトポロジーを見分けることができるプローブ分子として、チオフラビンTの誘導体を複数種類合成してその分子認識特性を評価した(Molecules, 25, 4936 (2020))。さらに、クラウディング環境においては、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼといった遺伝子発現過程での重要な反応を担う酵素の基質認識に対して、Watson-Crick型の水素結合よりも塩基間のスタッキング相互作用の方が多大な影響を及ぼすことを明らかにした(RSC Adv., 10, 33052 (2020)、Molecules, 25, 4120 (2020))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新型コロナウイルスの影響により実験を要する研究(特に、細胞レベルでの遺伝子発現を解析する研究)で停滞が生じたものの、これまでに得られているデータをまとめ、核酸トポロジーの熱安定性予測を可能にするデータベースを構築して公表するに至った。また、関連する研究成果をとりまとめ、総説を発表することも行った(Chem. Soc. Rev., 49, 8439 (2020)、Top. Curr. Chem., 379, 17 (2021))。さらに、今後の研究課題として挙げられる、核酸トポロジーの化学的制御に基礎的知見を「活かす」研究にも着手し、有機小分子で修飾した核酸分子を合理的に設計することで、その熱安定性を制御することにも成功した(Nucleic Acids Res., 48, 3975 (2020))。細胞レベルでの実験系を用いて核酸トポロジーを解析し、遺伝子発現への影響と相関させる研究が今後の課題として残ってはいるものの、上記理由によりおおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針として、これまでの研究期間で得られている知見に基づき、「細胞レベルで核酸トポロジーを化学的制御に【活かす】研究」を遂行し、研究課題の目的である細胞機能を化学的に制御する新たな基盤技術の確立を目指す。また、新型コロナウイルスの影響により一時的に停滞している「核酸トポロジーに起因する遺伝子発現の調節を分子レベルで【見る】研究」についても、研究成果をまとめる作業を進める。 以下、2つの研究方策を例示する。 1. 細胞内における相分離状構造体の化学的制御 これまでの研究成果により、RNAが形成する特徴的な核酸トポロジーが、タンパク質との相互作用を介して細胞内での相分離状の構造体を形成し得ることが示されつつある。そこで、相分離状構造体の形成に関与する核酸トポロジーを人為的に制御する技術を構築し、細胞内での相分離状構造体の形成制御を試みる。 2. 核酸トポロジーの制御に基づく遺伝子発現制御 これまでの研究成果により、複製、転写、翻訳などの各遺伝子発現の過程に関与する核酸トポロジーとタンパク質との相互作用を、低分子化合物などを用いて調節可能であることが示されている。また、核酸トポロジーと他の分子との相互作用は、相互作用時に取り込まれる(または排出される)イオンなどでも調節可能であることを見出しつつある。そこで、イオンチャネルに作用する化合物などを用いて細胞内のイオン濃度を化学的に調節し、核酸トポロジーが関与する遺伝子の発現過程を人為的に制御することを試みる。
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