2021 Fiscal Year Annual Research Report
イネ小胞子に潜在する個体分化能と倍数化能を活用した育種基盤の新構築
Project/Area Number |
19H00937
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
貴島 祐治 北海道大学, 農学研究院, 教授 (60192556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 敏央 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (00442830)
長岐 清孝 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (70305481)
小出 陽平 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (70712008)
金 鍾明 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (90415141)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イネ / 葯培養 / 小胞子 / 減数分裂 / 四倍体 / 非還元性配偶子 / 稔性 / 染色体異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトではイネ小胞子に潜在する個体分化能と倍数化能を開発するため、5つの課題1)小胞子から個体分化を誘導するメカニズム、2)イネ小胞子から効率的に個体を再生するシステムの構築、3)種間雑種の葯培養個体で誘導される倍数性の発生メカニズムの解明、4)種間雑種の葯培養個体によって雑種不稔性を回避する機構解析、5)葯培養個体から生じた倍数体種間雑種による新しい育種材料の開発の研究を行っている。本年度は、課題3)4)5)に関連した成果が得られた。 2種の栽培イネの種間雑種には強度の雑種不稔が生じるが、日本晴(O. sativa)とWK21(O. glaberrima)のF1を葯培養したところ、稔性を有する再分化四倍体が得られた。再分化個体は二倍性の非還元性配偶子に由来すると推測され、F1雑種の減数分裂では染色体の構造異常や細胞質分裂の空間的異常が生じていた。染色体の構造異常の例として一価染色体の形成や第一分裂後期における染色体架橋があり、細胞質分裂の異常として紡錘体の形成と紡錘体配向性・細胞板形成、非還元性配偶子を含めた三分子の形成が認められた。他にも微小核の形成や非同調的減数分裂の進行が観察された。一価染色体の形成や紡錘体形成、紡錘体配向性・細胞板形成の異常が非還元性配偶子の形成に関与し、受精後代の不稔性に繋がることが推測される。非還元性配偶子に繋がる異常の頻度は約15%であったことから、F1花粉の少なくとも約15%は、HS座が関与する前段階の減数分裂時で、既に異常が生じていることが示唆された。 稔性を持つ四倍体の種間雑種イネを二倍体へ還元したところ、1系統のみに稔実が得られた。この稔実のあった系統Red1系統を自殖した後代集団の種子稔性は、0%から62%に広く分布した。これらのアソシエーション解析を行った結果、第8染色体上に稔性に関わる候補領域が存在する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトで実施する5つの課題1)小胞子から個体分化を誘導するメカニズム、2)イネ小胞子から効率的に個体を再生するシステムの構築、3)種間雑種の葯培養個体で誘導される倍数性の発生メカニズムの解明、4)種間雑種の葯培養個体によって雑種不稔性を回避する機構解析、5)葯培養個体から生じた倍数体種間雑種による新しい育種材料の開発の研究、のうち3)、4)、5)については本年度上記のように進展があった。一方、1)小胞子から個体分化を誘導するメカニズム、2)イネ小胞子から効率的に個体を再生するシステムの構築については実験系の構築に難しい部分があることが判明した。言い換えると、これも新しい知見にはなるのであるが。イネの葯の中で葯培養や小胞子培養で利用できる小胞子が極めて限られていることが新たに明らかになった。約1%程度の小胞子しか実際には植物体に分化できる能力を持っていない。このことから当初考えていた葯のChip解析や小胞子培養は、利用できる小胞子の数が極めて少なく、葯から再分化能を有する小胞子を生きたまま選抜し単離することは上記の実験においては不可能と判断した。このことから1)と2)の実験は再考する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の繰越分の研究があるため、その研究に対応した実験を行うが、「現在までの進捗状況」で述べたように、1)や2)の実験では小胞子が大量に必要なため(再分化能を有する小胞子が全体の約1%しかない)事実上当初の目的に沿った実験はできない。研究自体の方向性を、なぜ葯には分化能を有する小胞子が葯全体の1%しか存在しないのかという問題に変更して、進める必要が生じてきた。また、5)葯培養個体から生じた倍数体種間雑種による新しい育種材料の開発の研究に関する研究では、3)は種間雑種における減数分裂の異常に関してデータをまとめ論文化を進める。4)では、稔性を有する四倍体個体を還元して二倍体にした集団を用いて、稔性に関連した遺伝子の単離を進める。5)では四倍体の種間雑種後代系統を維持しており、現在F8世代まで進行した集団を使って形質調査を行なっており、これまでに存在しなかったアジアとアフリカの2大陸にまたがる種間雑種において旺盛な稔性を生じる系統を選抜することが期待できる。
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[Journal Article] Identification of a Saltol-independent salinity tolerance polymorphism in rice Mekong Delta landraces and characterization of a promising line, Doc Phung2022
Author(s)
1.Tam, N. T., Dwiyanti, M. S., Sakaguchi, S., Koide, Y., Dung, L. V., Watanabe, T., Kishima, Y.
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Journal Title
Rice
Volume: 15
Pages: 65
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Seed management using NGS technology to rapidly eliminate a deleterious allele from rice breeder seeds.2022
Author(s)
2.Balimponya, E. G., Dwiyanti, M. S., Ito, T., Sakaguchi, S., Yamamori, K., Kanaoka, Y. Koide Y., Nagayoshi, Y., Kishima, Y.
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Journal Title
Breeding Science
Volume: 72
Pages: 362-371
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Temporal changes in transcripts of miniature inverted-repeat transposable elements during rice endosperm development.2022
Author(s)
Nagata, H., Ono, A., Tonosaki, K., Kawakatsu, T., Sato, Y., Yano, K., Kishima, Y., Kinoshita, T.
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Journal Title
The Plant Journal
Volume: 109
Pages: 1035-1047
DOI
Peer Reviewed / Open Access