2020 Fiscal Year Annual Research Report
Regulatory mechanisms of seminal proteins on uterine function and its application to improvement of fertility in cows
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19H00964
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
片桐 成二 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (00292061)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳川 洋二郎 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (20609656)
杉浦 智親 酪農学園大学, 獣医学群, 助教 (40828258)
奥山 みなみ 大分大学, 医学部, 助教 (50756781)
平山 博樹 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (60390861)
永野 昌志 北里大学, 獣医学部, 教授 (70312402)
田上 貴祥 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70709849)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リピートブリーダー牛 / 乳牛 / 低受胎 / 上皮成長因子 / オステオポンチン / 精漿 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は前年度から評価しているオステオポンチン全長の組換えタンパク質に加えて、オステオポンチンの活性部位を除く約半分の領域を欠損した組換えオステオポンチンを調製した。また、生乳由来オステオポンチンの効果についても調べた。受胎性改善効果は、リピートブリーダー牛にオステオポンチン(各60頭)を投与し、子宮での上皮成長因子(EGF)濃度変化の正常化率と人工授精による受胎率により評価した。また、組換えオステオポンチンを投与したリピートブリーダー牛と対照牛(各10頭)に対し、発情後7日目に受精卵2~3個を移植し、7日後に回収してその生存率、形態、遺伝子発現およびリンパ球に対する効果を調べることで胚の品質を評価し、子宮環境の指標とした。また、オステオポンチンが全身の免疫系に及ぼす効果を評価する手法を検討した。 その結果、組換えオステオポンチン及び生乳由来オステオポンチンは,いずれも50~60%のリピートブリーダ牛で子宮でのEGF濃度変化を正常化し、受胎率を40~50%に改善した。一方、欠損型のオステオポンチン組換えタンパク質を投与した牛では子宮でのEGF濃度変化の正常化率及び受胎率のいずれも対照群と同等(約20%)であり受胎性改善効果は認められなかった。組換えオステオポンチン投与群では形態的に正常な受精卵は7頭から16個(64%)が回収され、正常牛の7頭から13個(65%)と同等であった。また、そのサイズおよび胚自体の遺伝子発現は正常群と同等であったが、リンパ球でのISG発現量に及ぼす効果には胚の間で大きな差異がみられ、かつ発現量の高かった胚でも正常牛から回収した胚に比べ約40~60%の効果に止まった。以上の結果は、オステオポンチンによる子宮でのEGF濃度変化の正常化は胚の生存性と発育を正常牛と同等に回復させる効果がみられるが、その機能の一部には差異のあることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は以下の3課題を実施する計画であり、令和2年度まではそのうち課題1および2を実施予定とした。現時点では両課題とも計画よりも進んでいる部分と遅れている部分があることから上記評価とした。遅れについては、いずれも一般農場での材料採取の部分であり、COVID-19の感染予防のため農場への立ち入り制限が課されことにより生じたものである。 1.オステオポンチン様タンパク質を用いたEGF発現正常化および受胎性回復効果の実証試験:本試験についてはCOVID-19の影響により試験実施頭数が予定より少ないが、北海道道央地区の試験により統計学的に十分なデータが得られており、その効果が実証された。一方、気候や飼養管理の異なる地域・農場での効果を比較する試験は、九州地区での試験が実施できなかったため比較検証するデータが得られていない。 2.精漿投与モデルを用いたリンパ経路による膣から子宮への効果伝達機序の解明:オステオポンチンが全身および子宮の免疫系に及ぼす効果を調べる研究については、令和2年度中に評価系を確立し、評価対象とする遺伝子を決定した。これを用いて、試験開始以前に採取した解析モデルの材料9頭分を再解析し精漿投与後に生殖器の付属リンパ節で起こるサイトカイン発現の変化を明らかにした。また、胚移植による評価については当初計画よりも約半年以上早く進んでいる。 3.精漿の腟内投与により誘起される子宮およびサイトカインバランスの変化を再現し、EGF発現および受胎性への効果を検証:上記2により評価系および指標は決定しており、当初計画通り令和3年度途中から開始する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19による農場利用の制限については、感染予防対策を実施しつつ研究材料を採取することへの北海道地区農場の理解が得られたことから令和3年度内には評価に必要な頭数の材料できる予定である。一方、農場毎のマネージメントや飼養管理の違いに由来する地域・農場間での免疫機能の差異によるオステオポンチンの効果の比較については、九州地区を含めて複数の農場での材料採取が可能になった時点で実施する計画に変更する。 また、上記北海道地区の材料採取においても、一般農場での通常の人工授精による繁殖管理の中で実施しているリピートブリーダー牛に対するオステオポンチンによる全身および生殖器の免疫系への効果および作用機序の解析については、既に試験が開始されている供試牛の試験終了後はその実施を一旦見合わせる。これに代わり、より少ない頭数で同等の効果が得られる(すなわち、農場への出入り回数および従業員との接触機会を低減できる)胚移植による評価に変更する。供試牛は、試験への使用により繁殖計画に遅れを生じる(3~4週間)ため、一部は有償で借り上げることになり、その費用も含めて経費および作業時間が大幅に増加する。この試験は本研究課題の最重要事項であるため、令和3年度はこの試験を優先して実施することとし、もう一つの進捗が遅れている項目、すなわち試験牛を安楽死してリンパ節や生殖器を回収することでオステオポンチンが免疫系への効果を発現する経路を調べる試験の追加実施については令和4年度以降に延期する。
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