2020 Fiscal Year Annual Research Report
シグナルと力のゆらぎが上皮組織の可塑性を支配するしくみ
Project/Area Number |
19H00996
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
林 茂生 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60183092)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 達夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (10359888)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 上皮 / 形態形成 / シグナル / ゆらぎ / ロバストネス / アクチン |
Outline of Annual Research Achievements |
発生中の上皮組織は細胞の形態、収縮、運動の状態が細胞自律的な要因でばらつくゆらぎ (ノイズ)の高い状態にある.形態形成が進行するためには細胞のゆらぎ状態が組織中で統 御され、一貫した運動に収束させる必要がある.本研究ではショウジョウバエ胚上皮におい てゆらぎを統御する二つのしくみ、分子シグナルと力学シグナル、について検討する. 2020年度は管状上皮の気管が管腔内部の圧力増加に伴って拡張するシステムについて注目した.拡張力は細胞膜を押し広げる張力を生むが管状のジオメトリーにおいては張力には方向性が生じる.この偏った(aniosotropicな)張力が気管上皮細胞表層のアクチン繊維の配向に方向性を与え周長方向に等間隔に並んだアクチンケーブルを形成する.このアクチンケーブルは拡張力に拮抗することで管のサイズを制御する.アクチン繊維の蛍光マーカーを用いて超解像、高速イメージングを行ったところ、アクチン繊維は100nm程度のサイズでクラスターを作っていた.このアクチンクラスターは管の拡張初期には管腔面に接するアピカル細胞膜状上で高度に揺らいだ分布を示し、高速で集合離散していた.管の拡張と共にアクチンクラスターは連結し、連続的なケーブルを作って安定化した.この過程のダイナミクスを定量的に評価することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オルガノイド培養系では上皮組織が球形の内腔を取り囲んだ三次元構造(シスト)をもとに様々な器官構造が形成される。内腔のマトリクスは上皮組織に対して化学シグナルを伝達すると共にゲルーゾルの様相をとることでシストを拡張させ、上皮に力学的刺激を与える.この過程は組織自律的に進行するため、培養操作による介入は困難である。本研究は管腔の形成過程のin vivo観察が容易で各種の遺伝学的手法が適用できるショウジョウバエの気管系を研究材料として、マトリックスからの機械刺激が細胞表層のアクチン骨格系に与える効果をモニターすることで管腔の圧力刺激が細胞と管組織の形態に与える効果を検討し、アクチン骨格系の自己創発的な形態形成原理を解明することを目的とした. 気管の成熟過程において管は内径の拡張と長軸方向への伸長をおこなう。気管上皮表層のアクチン骨格を超解像顕微鏡によるライブイメージングで撮影したところ拡張に伴って当初(-80 min)に見られるランダムな配列から周長方向に配置した等間隔の繊維 (20 min)が発達することが見いだされた.このアクチンケーブルはミオシンに駆動されて管腔を収縮させることでマトリックスの拡張力に拮抗する. 高倍率での観察により多数のアクチン繊維が集合して直径100nm程度の凝集体をとる.このアクチンクラスターを単位として方向性を持ったケーブルに集合する過程が判明した.またアクチンケーブル形成に関わる分子の動態とアクチンクラスターとの位置関係についても研究を進めた.アクチンクラスターの集合過程に関わる分子を探索するためにRNAiによるスクリーニングをすすめている.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はCovid19蔓延による出勤制限と出張制限で研究遂行において避けられない遅れが生じたものの在宅期間を高速イメージングデータの定量解析に用いるなどの工夫を行った.今後このプロセスの分子動態を再現するシミュレーションを試みる.このモデルを用いてアクチン繊維の集合、クラスター形成、ケーブル形成などのプロセスの理解をすすめたい.
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