2019 Fiscal Year Annual Research Report
“記憶の局所フィードバック仮説”ーその中枢単一同定ニューロンでの検証
Project/Area Number |
19H00998
|
Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
吉原 基二郎 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 総括研究員 (80222397)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 記憶 / シナプス可塑性 / ショウジョウバエ / フィーディング・ニューロン / ローカルフィードバック仮説 |
Outline of Annual Research Achievements |
条件反射のパラダイム確立および条件反射に伴う神経回路の新しい神経回路形成の確認 パラダイム作成 ; 研究代表者の研究室で発見されたショウジョウバエのフィーディング・ニューロンを要とする摂食神経回路に着目すると 、単一細胞レベルでパブロフの条件反射に伴うシナプス可塑性を解析することができる。パブロフの実験では、イヌの摂食行動(エサが無条件刺激)にベルの音などの条件刺激を連合したが、行動実験をシナプスの観察と同時に行う為には、一匹のハエを定位した状態でパブロフのイヌが示したような条件刺激への反応の変化を起こさせる必要がある。 米国マサチューセッツ大学およびマサチューセッツ工科大学において研究代表者が主宰する研究室のポスドクであった櫻井晃博士(現在、当研究所主任研究員。研究代表者の研究協力者として共同研究を続けている)と共に、” あらかじめハエに持たせておいた棒を離す”という条件刺激を、口吻へのショ糖水溶液の刺激(無条件刺激)による摂食行動に連合する条件反射の新規パラダイムを作成することに成功した。この実験条件をシステマティックに検討して最適化した(論文revise中)。 細胞発火のCa2+イメージングによる新しい神経回路形成の確認; 研究代表者が開発したライブ実験系を利用し、フィーディング・ニューロンのメインの幹部分でCa2+イメージングをしながら、確立した条件反射実験を行った。その結果、条件付け成立後には、条件刺激のみによってフィーディング・ニューロンが発火することをGCaMP6mの蛍光増大として観察した。これは、条件反射成立にともない、新しい神経回路が形成されたことを意味する。また、この記憶形成の分子機構候補として、Synaptotagmin 7が短期可塑性において抑圧を促通に変換するスィッチの働きをしていることを神経筋シナプスの電気生理実験において発見した(Sci.Rep., 2021)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
条件反射の実験系は順調に確立され、論文発表間近である。補助員の雇用が遅れたために機構の解析が遅れている一面もあるが、一方、シナプトタグミン7の電気生理学的解析が短期記憶に非常に重要であるという予想外の発見をしたため、分子機構の解析は予想以上にいい方向に向かっている、とも言える。よって、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
既に確立したショウジョウバエの条件反射の実験系をつかって、いよいよ記憶過程のリアルタイム観察を始め、記憶形成の際にシナプスがどのように可塑的に変化するのかを調べる。さらに、この記憶形成過程において、記憶形成部位における単一小胞放出をカルシウムイメージング法によって検出する。2005年にScience誌で提唱したローカルフィードバック仮説がもし正しければ、記憶形成時に、記憶形成部位において単一小胞放出が連発することが期待される。よって、そのことが観察されれば、ローカルフィードバック仮説は最も強く支持されるので、様々な実験条件において、記憶時の単一小胞放出を観察して、その記憶との関連を追求する。また、そこで働く分子として、短期可塑性において重要な働きをするということが研究代表者の研究室における神経筋シナプスの電気生理学実験によって発見されたシナプトタグミン7(Sci.Rep., 2021)、また、逆行性シグナル制御をしていることを研究代表者らが示したシナプトタグミン4(Science, 2005)のドメイン特異的な突然変異体をCrisper/Cas9法によって作成し、それらの分子の記憶制御について、神経筋シナプスの電気生理学実験と成虫の条件反射実験の両実験系を用いて解析し、その両面から、シナプス可塑性と記憶を関連づけて記憶形成過程の分子機構を探る。
|