2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H01010
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 康紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (90466037)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 空間文脈細胞 / 場所細胞 / 前帯状皮質 / 海馬 / カルシウムイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
情報の抽象化は脳での情報処理の基本である。視覚系では多数の脳領野の階層、並列処理を経て、物体や人の顔の認識に至る。場所情報も同様に、嗅内野格子細胞と海馬場所細胞などに担われる場所の絶対情報を元に、例えば「自宅の部屋」といった抽象化が行われていると考えられる。しかし、抽象化された概念が脳のどこでどのように形成、表現されているかは明らかではない。我々は最近、空間への曝露を繰り返すことで、前帯状皮質に、空間の特定の地点ではなく、その空間内であればどこでも反応する細胞、つまり空間文脈に反応する神経細胞が出現することを見出した。本研究では、この「空間文脈細胞」が抽象化された場所概念の認識と記憶を担うのではないかと考え、その形成の細胞メカニズムを中心に場所情報の抽象化についての研究を行う。 前帯状皮質は、大脳内側面に位置し帯状皮質を介して海馬を含む大脳辺縁系からの入力を受ける一方、広範な脳領域に出力する。特に遠隔記憶の想起に伴い再活性化が起こる領域として知られ、当初海馬で形成された記憶が移行する部位として考えられてきた。そのため、前帯状皮質でいかなる神経活動が記録されるかは興味深い。我々は、前帯状皮質神経細胞に、特定の位置ではなく、その空間であればどこに動物がいても反応する細胞があることを示唆する結果を得て「空間文脈細胞」と名付けた。当日は観察されず、空間曝露を数日繰り返していく事で初めて検出された。発火には特異性があり、他の空間では発火しない(図1右)。空間文脈細胞は抽象化された場所概念の記憶を担う細胞とも考えられ、その性質と形成過程には大いなる興味が持たれる。我々は海馬の複数の場所細胞からの情報が、前帯状皮質に収斂投射される結果ではないかと考えた。本研究では、空間文脈細胞の性質を明らかにし、海馬と前帯状皮質間の情報交換によりどのように空間文脈細胞が形成されていくのかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前帯状皮質の場所細胞をより詳細に解析した結果、海馬場所細胞より広い場所受容野を持つ細胞を前帯状皮質で発見した。場所細胞の場所受容野面積が全体面積に対して約10-30%であったのに対し、これらの前帯状皮質神経細胞は全体面積の約40-80%を場所受容野として発火した。空間Aで広い場所受容野を示した細胞は空間Bで広く発火することはなく、これらは場所選択性のある活動をする細胞で、単なる過活動の細胞ではないことが分かる。また四角走路では角を曲がるために方向転換をするが、方向転換で頭の向きが変わっても発火が続いている様子が見られるため、頭方位細胞とも異なる細胞である。このような細胞は今まで報告がなく、新規の細胞である。申請者はこの広領域で発火する前帯状皮質の細胞を空間文脈細胞と名付けた。そして9日間に亘り全細胞における空間文脈細胞の割合の変化を追った結果、空間文脈細胞は9日間の暴露により徐々に増えていくことが分かった。この結果から空間への繰り返しの暴露により学習が進み海馬からの投射が行われている可能性がある。前帯状皮質の場所細胞や空間文脈細胞の形成が海馬からの投射によるものであれば、海馬の活動を抑制することによりその形成も阻害されると考えられる。これを検証するため、学習時にDREADDによる海馬抑制を行いながらイメージングにより前帯状皮質の神経活動を記録する。AAV Vectorを用いて海馬CA1錐体細胞にhM4D(Gi)を発現させ、CNOを記憶学習30分前に腹腔内投与することにより、記憶学習中に海馬の活動を制御しながら前帯状皮質のイメージングを行った。海馬での記憶形成を阻害することにより、前帯状皮質で空間文脈細胞の増加や安定化が見られなくなった。この結果より空間文脈細胞は海馬で形成された場所細胞による空間記憶が、抽象概念化された長期記憶として前帯状皮質へ移行したものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
特に、睡眠中に海馬で発生するメモリーリプレイに着目する。空間学習中に海馬で観察された場所細胞は、動物の静止状態や睡眠中に再び発火することが知られている。この現象はメモリーリプレイと呼ばれ、記憶固定のメカニズムとされている。つまり、海馬で場所細胞が繰り返し活性化すること(メモリーリプレイ)で、投射先の前帯状皮質で発火した神経細胞同士がシナプス可塑的な変化を起こし長期記憶が形成されると考えられている。シナプス可塑的な変化により細胞同士の伝達効率が上昇することを長期増強(LTP)という。前帯状皮質イメージングでは、このような繰り返しによるシナプス可塑的な変化が、海馬からの情報を伝達し前帯状皮質で空間文脈細胞を形成したと考えられる。これらの結果は、メモリーリプレイによって引き起こされる海馬から前帯状皮質への伝達が記憶の形成に重要であることを示している。そうだとすると、申請者が前帯状皮質で観察した空間文脈細胞もメモリーリプレイによるシナプス可塑的な変化により形成された可能性が高い。これらの特性とメモリーリプレイの関係を明らかにするためには課題遂行中や睡眠中など自由運動での神経活動観察に加え、海馬や前帯状皮質の活動を操作する技術や睡眠を検出する実験系などが必要である。我々は空間文脈細胞のさらなる解析に有用であるシナプス可塑性を消去する技術を有している。本研究ではシナプス可塑性を操作する技術と自由行動化でのカルシウムイメージングを組み合わせて場所細胞・空間文脈細胞の活動を解析することにより、LTPによる記憶固定化の機構を明らかにする。
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[Journal Article] Distinct mechanisms of over-representation of landmarks and rewards in the hippocampus2020
Author(s)
Masaaki Sato, Kotaro Mizuta, Tanvir Islam, Masako Kawano, Yukiko Sekine, Takashi Takekawa, Daniel Gomez-Dominguez, Alexander Schmidt, Fred Wolf, Karam Kim, Hiroshi Yamakawa,, Masamichi Ohkura, Min Goo Lee, Tomoki Fukai, Junichi Nakai, Yasunori Hayashi
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Journal Title
Cell Report
Volume: -
Pages: -
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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