2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H01030
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大野 博司 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50233226)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 裕美子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 客員研究員 (10614274)
加藤 完 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (20632946)
宮内 栄治 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (60634706)
下川 周子 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60708569)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | IgA / 大腸炎 / 腸内細菌 / 自己免疫疾患 / 多発性硬化症 / 1型糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸内細菌叢は宿主の生理や病理に多大な影響を及ぼすと考えられるがその全容は未だ明らかではない。本研究では、腸内細菌叢が多発性硬化症や1型糖尿病といった自己免疫疾患の発症やその制御の分子機構において果たす役割をあきらかにするために、ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、メタボロームなど異なる階層の網羅的解析を組み合わせた「統合オミクス手法」を用いて研究を進めた。 多発性硬化症に関しては、そのモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスを用いて、i) 小腸にから分離したErysipelotrychaceae科の菌株が抗原非依存的に炎症性T細胞を活性化し、無菌マウスに定着させるとEAE発症に寄与すること、ii) Lactobacillus属の菌株がEAEの自己抗原と交叉反応を示すペプチド抗原を有するが単独では無菌マウスにEAEを発症させないこと、iii) 上記2菌を同時に定着させるとErysipelotrychaceae科菌株単独と比較してEAEが増悪することを見いだした。 1型糖尿病については、ストレプトゾトシン(STZ)投与による1型糖尿病(T1D)のモデルマウスに腸管寄生虫Heligmosomoides polygyrus (Hp)を感染指せるとT1Dが軽減すること、Hpはトレハロースを産生しており、トレハロースをマウスに盗用すると腸内細菌叢に作用することでLuminococcus属菌が増加すると共に、脾臓や膵臓局所のCD8+制御性T細胞が増加し、この細胞がT1D発症を抑制すること、トレハロース投与マウスの糞便からトレハロース依存的に増加するLuminococcus属菌を単離し、マウスに投与することによりT1Dを抑制する菌を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多発性硬化症に関しては、マウスモデルであるEAEの解析から、その発症に小腸の細菌叢が関与していることを明らかにできた。さらにそのメカニズムとして、小腸のLactobacillus属細菌が自己抗原の抗原ペプチドと交叉反応を示すミミックリーペプチドを発現することで、自己反応性T細胞を小腸局所で再刺激すること、別のErysipelotrychaceae科細菌が血清アミロイドAやIL-23といったTh17細胞活性化に関わる分子を発現誘導することで自己反応性T細胞の活性を高めることを明らかにし、これNature誌に掲載予定である。 1型糖尿病については、腸管寄生虫Heligmosomoides polygyrus (Hp)が産生するトレハロースがLuminococcus属菌の増加を介してCD8+制御性T細胞を増加させることにより、膵裸ランゲルハンス氏島の破壊を抑制するという発見は、1型糖尿病の新たな発症抑制メカニズムを明らかにした点で意義深い。さらに、ヒト1型糖尿病患者においても、健常対照群と比較して末梢血中CD8+制御性T細胞が減少しており、同時に糞便中のLuminococcus属菌の減少も認められたことから、ヒト1型糖尿病においても同様のメカニズムが働いている可能性があることは重要な知見である。本研究成果は、Nature Communicationに掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
1.多発性硬化症患者の糞便ではAkkermansiaの増加が認められており、本菌の病態への関与が示唆されている(Berer et al, PNAS 2017)。また、Akkermansiaを含むヒト腸内細菌14菌株を定着させたマウスに無繊維食を与えることにより、高繊維食を与えたマウスに比べ腸管内でAkkermansiaが増加することが報告されている(Desai et al, Cell 2015)。これらのマウスに EAEを発症誘導したところ、無繊維食を与えたマウスがAkkermansiaの増加とともに、より重篤な症状を発症することを見出した。そこで本年度は、マウスに定着させる14菌株からAkkermansiaを除いた13菌株定着マウスにEAEを発症誘導し、Akkermansiaの自己免疫疾患への影響を検討する。また、これまでに得た知見をもとに、Akkermanisaの有無が自己応答性の炎症性T細胞に与える影響を解析する。Akkermansia以外の菌の関与が示された場合、14菌株からそれらの菌を除いて同様の検討を行う。 2.前年度までに単離したRuminococcus属菌をトレハロース の有無で培養し、増殖を確認する。また、Ruminococcus属菌とCD8Tregを共培養し、Ruminococcus属菌がCD8Tregを直接増殖させるか、間接的に増殖させているのかを確認する。間接的に増殖させている場合、Ruminococcus属菌が出す何らかの物質が関係していると考えられる。よって、トレハロース 添加時の培養上清を用いてメタボローム解析を行い、トレハロースの添加によって増加しているRuminococcus属菌由来の代謝産物を同定する。さらにその物質がCD8Tregを誘導しているかどうかを試験管内で確認する。
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