2020 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment of neurodegeneration-expansion by death cell-live cell signal transduction and development of new therapeutics targeting on the signal
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19H01042
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
岡澤 均 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (50261996)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 神経変性 / ネクローシス / 変性拡散仮説 / 死細胞・生細胞間シグナル伝達 / アルツハイマー病 / 認知症 / YAP / HMGB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究『死細胞・生細胞間シグナル伝達による変性拡散仮説の確立と応用』では、はじめに、新規ネクローシス(TRIAD)を鋭敏に検出するマーカー分子pSer46MARCKSを活用して、アルツハイマー病などの病態時間軸における新規ネクローシスの時期を特定する。次に、生化学的手法、遺伝学的手法、細胞生物学的手法などを用いて、新規ネクローシスに至る上流分子経路を解明する。さらに、ネクローシス細胞膜分子変化あるいはネクローシス細胞の放出分子が、周辺の神経細胞等に引き起こす下流分子経路(2次的細胞変性)を明らかにする。 これら3つの解析結果を疾患横断的に実施・比較することで、神経変性疾患における新規ネクローシスの時間軸上の位置付けを定義すると同時に、死細胞・生細胞間シグナル伝達の観点から『変性』の新たな概念の樹立を目指す。また、上記の研究ステップの中で、シグナル経路を担うコア分子への介入によるin vivo 治療効果を検討し、新たな治療法シーズの開発を目指す。 本年度までに、アルツハイマー病態において、新規ネクローシスがアミロイド細胞外凝集よりも以前に生じること、さらに、この超早期ネクローシスは、神経細胞内部アミロイドがHippo経路最下流分子YAPと結合して生存維持シグナルが阻害して生じるTRIADであることを解明した。加えて、AAV-YAP遺伝子治療が、TRIADネクローシスを抑制し、結果として、細胞外アミロイド凝集(老人斑)が減少させ、認知機能障害が改善することを示し、新たなアルツハイマー病治療になりうることを示した。さらに、アルツハイマー病以外の神経変性疾患における新規ネクローシスの有無について検討を加え、その可能性を示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
HMGB1はネクローシス細胞死を起こした時に放出され (Scaffidi et al, Nature 2002)、周辺の神経細胞のTLR4に結合してシグナル経路を活性化する。そこで、非アルツハイマー病神経変性疾患の患者髄液中のHMGB1関連シグナルを測定したところ、物質Xの上昇を認めた。さらに、患者の血液サンプルを用いて、物質Xの測定を試みている。この測定が可能になれば、非アルツハイマー病神経変性疾患においても、物質Xが脳内ネクローシスの活動性を示すバイオマーカーとなる可能性が出てくる。 また、ゲノム編集技術を用いて非アルツハイマー病神経変性疾患の遺伝子変異を導入したヒトiPS細胞をから、ヒト・ニューロンを分化させて、その詳細な観察から、YAPの細胞生存維持作用が奪われるために生じる新しいタイプのネクローシス(TRIAD)を誘導する可能性を検討している。 さらに、非アルツハイマー病神経変性疾患のモデルマウスに対して、『死細胞・生細胞間シグナル伝達による変性拡散』を標的とした新規治療法を試みている。その一部で、TRIADネクローシスの抑制、認知機能改善、そして、細胞外アミロイド蓄積の抑制を示しつつある。 これは、年度のスタート時点で、すでに本年度の目的の主要点をすでに達成しつつあることを意味している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、アルツハイマー病以外の神経変性疾患を対象に、死細胞・生細胞間シグナル伝達と2次的細胞変性の解明を、4種類のFTLDモデルマウス、さらに、2種類のハンチントン病(HD)モデルマウス(変異Htt-KIマウス、R6/2マウス)を用いて実施する。これまでに蓄積した、網羅的リン酸化プロテオーム解析を行い、得られたリン酸化タンパク質変化をKEGGなどのシグナル経路特異的なデータベースを参照してデータマイニングして、死細胞・生細胞間シグナル伝達経路を同定する。 インフォマティクス解析あるいは計算論解析から推定された新たな死細胞・生細胞間シグナル伝達経路について、免疫組織化学でどの神経細胞あるいはグリア細胞に生じているかを同定し、ウェスタンブロット法により定量的再確認を行う。さらに、凍結脳サンプルを用いた生化学的手法により、膜受容体以後のシグナル経路の確認を行う。 最終的に、シグナル経路の遮断をASO, siRNA, shRNA、抗体、あるいは低分子化合物などを用いて行い、細胞レベル、個体レベル(病理および認知機能等の行動解析)で回復が見られるかを検討し、候補シグナル経路の病的意義を実証する。これらの一連の手法は、私たちが最近5年頻用してきたアプローチ(Nat Commun 2013, Mol Psychiatry 2014, EMBO Mol Med 2014, Sci Rep 2016, Nat Commun 2017, Nat Commun 2018)であり、同様に解析を進める。 また、3年間の研究成果を総合して、『死細胞・生細胞間シグナル伝達による変性拡散仮説の確立と応用』を完了する。
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Remarks |
1.2020.12.7日本経済新聞朝刊(科学技術面8ページ)に掲載。「認知症に遺伝子治療 米大など臨床研究開始 発症リスク抑制、根治狙う」 2.2020.12.4日本経済新聞電子版に掲載。「認知症にも遺伝子治療 目指すは根治と発症予防」
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Research Products
(23 results)