2020 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary research on autism across philosophy and medical science: Deleuzian philosophy and autistic studies
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19H01183
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國分 功一郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70515444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊谷 晋一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00574659)
千葉 雅也 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (70646372)
松本 卓也 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (90782566)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 哲学 / ASD / 自閉症 / 医学 / 精神分析 / ドゥルーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「自閉症に関する哲学と医学の学際的研究:ドゥルーズ哲学と自閉症研究の融合」は、現在飛躍的に進展しつつある自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)についての医学的な研究と、人間主体についての哲学理論とを双方向的に交差させながら、新しい人間観を打ち立てることを目的とするものである。双方向とはここで、医学的な研究成果を哲学の知見で解釈し、哲学的な理論を医学的なデータで裏付けるといった作業を並行して行うことを意味する。哲学と言っても、本研究課題では特に、20世紀フランスの哲学者ジル・ドゥルーズの哲学を中心的に参照している。ドゥルーズの哲学が極めてASDと親和性の高い哲学であるように思われることがその理由であり、実際にそれが本研究課題によって明らかにされつつある。もちろん、他の哲学理論も応用されている。 本研究課題のもう一つの特徴は、時代との関連のなかでASDを位置づけようとしていることである。ASDはその診断数が近年飛躍的に増加していることが知られている。だが、それが実際のASDの増加を意味しているかどうかは疑わしい。なぜならば、診断数は診断に行く人々の数に依存しているからである。むしろASD的な傾向をこれまで以上に障害として扱おうとする現代社会のあり方が、この診断数の増加の背景にはあるのではないだろうか。新自由主義あるいはポストフォーディズムと呼ばれる現代の支配的経済体制は、フレキシブルで、ビジネスコミュニケーションに長けた労働者を求めるが、これは、これらの能力が標準的人間像を形成し、この標準的人間像からずれる人間が「障害者」として社会的に排除されつつある可能性を示しているとも言えるからである。 本研究課題は、現代社会への批判的視座を持ちつつ、文理融合ならぬ文医融合の観点から、新しい人間観を打ち立てようとする試みであると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2019年には毎月、東京と京都で研究会を行い、それが本研究課題の主たる活動となっていたが、2年目の2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止の影響により、すべての研究会をオンライン開催とすることを余儀なくされた。だが、それにも関わらず研究会自体は活発に行われた。またメンバーのみならず、外部ゲストを招いての会も開催された。 2020年度は、当初予想されていた以上に研究が進展した論点として、1)言語、2)脳、3)日本の精神医学史の三点が挙げられる。1)ラカン派精神分析を応用する形で、言語の捉え直しが行われ、言語の構造そのものとしてのメタファーの役割を明確に位置づけることができた。2)現代の脳神経科学の知見を応用し、脳の新しい部分と古い部分との役割分担から、知覚の理論を刷新する可能性が示された。3)戦後日本の精神医学の歩みをたどりながら、社会と医学の関係をより明確に位置づけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究会を続けていくが、初年度はオンライン開催を続けるほかないと思われる。初年度は中間成果発表会と題して小規模なシンポジウムも行った。昨年度は開催は叶わなかった。本年度も開催は難しいであろう。オンラインでの開催は可能であるが、中間成果発表会をオンラインで開催する意味があるかどうかはもう少しメンバーの間で検討したいと考えている。 また同時にこれまでの研究の成果を社会に向けて発表していく準備を整えている。一つは英語での論文集の発表である。現在、イギリスの出版社と出版交渉を進めているところである。論文の英訳は完了しており、実現可能性は高い。特に世界のドゥルーズ研究の中で、ASDに注目した日本の我々の研究はある程度の注目を集めており、英語論文集出版が実現すれば、それなりのインパクトが期待できるように思われる。 また本研究テーマは、研究者のみならず、広く社会において知られるべき論点を含んでいる。そのため単に論文集を出すだけでなく、より広い層に研究成果を知らしめるべく、現在、研究成果の映像化の準備を進めている。ある種のドキュメンタリーフィルムのようなものになると思われる。これが実現すれば、本研究課題の研究成果に対する社会のアクセシビリティーは飛躍的に高まるように思われる。映像ならば、学校や職場などでも上映して観てもらえるからである。
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Research Products
(17 results)