2020 Fiscal Year Annual Research Report
「予見(prevision)」をコア概念とした統合的思想史の構築
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19H01199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 純 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251331)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 隆博 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20237267)
竹峰 義和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20551609)
清水 晶子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40361589)
乗松 亨平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40588711)
長木 誠司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50292842)
オデイ ジョン 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50534377)
加治屋 健司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70453214)
森元 庸介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70637066)
桑田 光平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80570639)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 予見 / 未来 / 芸術制作 / 予感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は「予見のポエティクス/エステティクス」をメイン・テーマとし、次のサブ・テーマによる研究を行なった。 1) 予見におけるアクターとの相互作用:T.インゴルドや C.セヴェーリに代表される近年の人類学的芸術論、またブレーデカンプらによるイメージ行為論で注目される「作ること(メイキング)」における制作者と事物・イメージとの相互作用を、「アクター・ネットワーク」(B.ラトゥール)におけるヒトとモノ、個物と集合、主観と客観の綜合、さらにF.ジュリアンが中国の芸術論を考察しながら提起した「勢」の概念ならびに「配置」の思想と比較し、新しい制作論の展望を探究した。 2) 前衛芸術における制作と予見の契機:制作という営為そのものを再審に付す試みであった20世紀以降の前衛芸術、とくにマテリアルの偶然性と作家による介入の配分を目指す抽象からミニマリズムへ至る造型芸術の展開をめぐり、具体的な事例として宇佐美圭司のプリヴェンションを中心に、西洋音楽における和声構造の消滅を承けた「予感(Vorgefuehl)」の契機の重視と比較しながら分析した。 3) 作品と予見の時間構造:ある作品が事後的に「未来を予見していた」と評されるケースや実現しないという意味で「失敗した予見」でありながら、現実に深く影響を及ぼしつづける事例といった、「現在を形成しつづける過去における未来」という時間性について、E.デューリングが提起する「レトロ未来」やベルクソンのデジャ・ヴュ論などを参照して検討した。 4) 音楽聴取における予見的機制:R.B.メイヤーが提唱した音楽聴取における情動的契機と予見的な形式把持の関係、および「身体知」と「環境に埋め込まれた認知」(W.C.クランシー)の結合をめぐる理論的系脈を再検証し、制作論と連続する新たな受容理論を、演劇・パフォーマンスを含む時間芸術一般に適用可能なかたちで探究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により延期を強いられた東京大学芸術創造連携研究機構との共催によるシンポジウム「学問と芸術の協働 ―アートで知性を拡張し、社会の未来をひらくー」は、当初想定したよりも長い準備期間を必要としたものの、2021年3月20日(土)~21日(日)に東京大学にて無事に開催することができた。今年度は4つのサブ・テーマにもとづく「予見のポエティクス/エステティクス」に関する研究を、各サブ・テーマ・リーダーを中心に着実に展開し、なかでもサブテーマ2) (前衛芸術における制作と予見の契機)で取り上げた宇佐美圭司の作品については、東京大学駒場博物館における展覧会「宇佐美圭司 よみがえる画家 展」(2021年4月28日(水)~6月27日(日))の開催に本研究の研究分担者(加治屋健司)が中心的に関わったことにより、多くの新しい知見が得られた。ドイツのマックス・プランク経験美学研究所の坂本泰宏との共同研究の成果もまた、2020年度中にドイツで刊行されている。コロナ禍のため、対面によるシンポジウムの実施など、国内外との研究交流は困難な状況にあったが、オンラインによる意見交換の機会を活かし、サブ・テーマに分かれての各研究分担者の研究は、研究実績も示すように、それぞれ活発に展開されている。以上により、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
「予見のポエティクス/エステティクス」というテーマをめぐり、東京大学芸術創造連携研究機構との共催シンポジウムや宇佐美圭司展といった大きな催しのうちに本研究が充実した成果を見たことを踏まえ、芸術制作における予見というテーマの研究をさらに発展させつつ、当初計画通り、2021年度に予定していた「予見のポリティクス」への接続を図りたい。4つのサブ・テーマである1) カタストロフィ論と予見の可能性、2) 歴史における予見、その政治的な射程、3) 救済論における予見の時間構造、4) 性/身体のポリティクスと予見的パフォーマティヴィティはいずれも、コロナ禍という現時点での最大の社会的危機に密接にかかわる問題系であるため、そのアクチュアリティを意識することにより、研究のいっそうの深化が期待できよう。
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Research Products
(31 results)