2019 Fiscal Year Annual Research Report
アウグスト強王コレクションにおける18世紀前期輸出磁器と「日本宮」の日本表象研究
Project/Area Number |
19H01213
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
櫻庭 美咲 神田外語大学, 日本研究所, 講師 (20425151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 正明 学習院大学, 文学部, 教授 (70392884)
野上 建紀 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60722030)
J・J Delaunay 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80376516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 工芸史 / 美術史 / 考古学 / 東西交流 / 国際共同研究 / 陶磁史 / 保存科学 / 修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.日本磁器の悉皆調査とリスト化:アウグスト強王旧蔵の日本磁器のうち、積み残し課題である未調査分約450点を対象に、8月、2月に調査を実施した(櫻庭・大橋康二)。約1250点の全コレクションの調査をほぼ終え、全容を把握することができた。8月の調査データのDBは完成し、現在は2月の調査データのDBを作成中である。本研究が基盤C(2016~18年度)の先行研究で実施した調査結果は、年度毎に個別のDBとして管理してきた。今回は、全体像の把握を可能とするため、データの不備を修正し、統合した(ドロネー)。 2.アウグスト強王旧蔵18世紀前期輸出磁器の考古学による研究:2020~2021年度に強王旧蔵磁器を有田町の出土陶片と比較する調査を計画している。そのため、2月11日に有田町歴史民俗資料館で科研主催第3回研究会「赤絵町の色絵生産」を開催した(発表:大橋、村上伸之(有田町歴史民俗資料館長)、ヴュルメル(ドレスデン国立美術館)、櫻庭、参加者6名。2月のドレスデン調査で村上氏に赤絵町関係品の概要調査をしていただいた。また、来年度の赤絵町調査の準備として強王旧蔵磁器全点の写真を分類、印刷した。 3.漆塗り装飾磁器の調査と材料分析による研究:4月20日に東京大学で第1回国内研究会を開きドロネー研究室の分析装置を確認した(参加者4名)。8月は漆塗り磁器をドレスデンの修復家と共同調査した(ドロネー、明珍素也他)。現地で収集した紙材料、木片等の光学的手法による観察を行い、材料の同定を行った。8月29日にドレスデン国立美術館で本科研主催第2回研究会「磁器の漆塗り装飾」を開催した(発表:ドロネー、明珍、参加者9名)。 4.アウグスト強王旧蔵品にみる伝統意匠の研究:以下のテーマについて現地で熟覧調査した。金襴手様式磁器(櫻庭)、金彩赤絵等の上絵付磁器(荒川)、初期色絵と単色陶磁等(藤原友子)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.大橋康二の貢献により、約1250点の膨大な作品の産地年代情報のDB化が実現した。所蔵品目録により18世紀の来歴がわかるという稀少な歴史的価値をもつ世界最大の基準資料であるコレクションの日本磁器全点が、大橋氏の統一基準で整理されコンパクトに一望でき、検索可能なDBとなったことは世界規模で学界へ貢献しうる成果と考える。 2.ドレスデン国立美術館及ドレスデンプロジェクトとの極めて良好な連携・協力により、調査やDB作成を滞りなく実施できている。我々の調査は同プロジェクトで評価を得て、盤石な信頼関係を構築することができたと思われる。その結果、2019年度にドレスデンプロジェクトから当科研メンバー5名が総目録の新たな解説の執筆依頼を受けた。我々の研究成果を国際発表する機会はさらに広がり、新たな展望が開けた。 3.ドレスデン国立美術館の学芸員等若手研究者、若手修復家、ライデン大学名誉教授クリスチャン・ヨルフ、東京大学のドロネー等を加えた国際的なメンバー構成で、漆装飾および赤絵町の色絵生産に関する国際研究会を2回開催した。国際的な研究者の密接な連携を実現しつつ、日本陶磁史を学ぶ西洋の若手の育成も行っている。 4.本研究は基盤Cによる研究の継続課題であるが、基盤Cのメンバーは美術史・考古学の研究者であった。今回は、漆塗り装飾の材料の光学的分析、および特定、修復方法の検討までを視野に入れる課題を追加したため、本科研のメンバーは、従来の美術史・考古学分野の専門家に、光学分析をおこなう工学系の専門家、および仏像修復をおこなう修復家を加えた学際的なメンバー構成である。観察手法が異なる多様な領域の研究者が集合し複合的な方法で観察を行い、意見交換することにより、当初の予測を超える新知見を獲得することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、下記の課題を中心に調査・研究を行う。適宜国内外で研究集会も行う。ただし、コロナウィルスによる日独間の出入国制限により年度内の渡航が実現する見通しが困難となった場合は、より実現性の高い国内で実施可能な課題を優先したい。 1.強王コレクション日本磁器のリスト化:①ドレスデン国立美術館で悉皆調査をした日本磁器のうち一部を見直し確認するための追加調査を行う。②全作品の調査データのDBを年度内に完成させる。③ドレスデンプロジェクトへ提出済みの総目録の英文解説原稿約450点をプロジェクト監督者と連携して校正する。 2.18世紀前期輸出磁器の考古学による研究:①強王旧蔵の輸出磁器(特に金襴手様式磁器)を赤絵町出土陶片(有田町歴史民俗資料館蔵)と照合し、色絵の生産地域を確認する。②強王蔵品の日本磁器全体の有田の生産窯に関する解説論文をドレスデンプロジェクトに提出する(大橋・2021年度英文総目録の一部として公開予定)。 3.漆塗り装飾磁器の調査と材料分析による研究:①ドレスデン国立美術館で現地調査を行う。光学的手法による材料分析と形状観察を可能な限り行う。②仏像の材料・技法と比較研究のための国内調査を行う。③仏教彫刻の手法による漆装飾再現のための材料観察は、来日予定のドレスデンの研究協力者の来日が実現すれば共同で行う。 4.アウグスト強王旧蔵品にみる伝統意匠の研究:①18世紀前期輸出磁器と漆塗り磁器の装飾にみられる日本の伝統意匠の図像学的意味等に関する情報を収集する。②特殊意匠の磁器および前述①に関する調査成果をまとめた解説論文をドレスデンプロジェクトに提出する(櫻庭、荒川、藤原、西田宏子・2021年度英文総目録の一部として公開予定)。③西洋所在の強王コレクション関連品を調査する。 5.「日本宮」の日本表象:ヘルツィヒによる日本宮に関する建築史の大部の新著を解読する(櫻庭)。
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Research Products
(17 results)