2021 Fiscal Year Annual Research Report
アウグスト強王コレクションにおける18世紀前期輸出磁器と「日本宮」の日本表象研究
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19H01213
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
櫻庭 美咲 神田外語大学, 日本研究所, 講師 (20425151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 正明 学習院大学, 文学部, 教授 (70392884)
野上 建紀 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60722030)
J・J Delaunay 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80376516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 工芸史 / 美術史 / 考古学 / 東西交流 / 国際共同研究 / 陶磁史 / 保存科学 / 修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
考古学による研究は、令和2年度計画で行った赤絵町出土品の悉皆調査で抽出し撮影した膨大な数の輸出磁器片の写真をアウグスト強王旧蔵の日本磁器と照合し、強王旧蔵品の同品30点を抽出することに成功した。この成果をまとめた論文「赤絵町出土品とアウグスト強王コレクションの比較研究」を本科研報告書に掲載(大橋康二(研究協力者)・櫻庭)した。 漆塗り装飾磁器の材料分析は、令和4年3~9月、漆装飾片の蛍光X線や光学顕微鏡等による分析を実施。研究成果をまとめた論文を本科研報告書に掲載した(島津美子(研究協力者)・ドロネー・櫻庭)。 伝統意匠の研究については、メンバーがこれまでの研究成果についてまとめた論文を本科研報告書に掲載した。櫻庭美咲「中国趣味からバロックへ―日本宮のIMARIにみる国際様式としての金襴手様式―」、荒川正明「17世紀末~18世紀初期:ポスト柿右衛門様式」、研究協力者:大橋康二「肥前・有田の柿右衛門様式」「肥前の染付」、西田宏子「京焼 アウグスト強王コレクションに見る作品紹介」、藤原友子「初期伊万里・初期色絵」他2本。これらを通じ、強王旧蔵品の日本陶磁の特徴を様式別に示し、おおまかな全体像を把握した。 「日本宮」日本表象研究では、18世紀の所蔵品目録を解読し、本科研報告書に掲載した櫻庭著論文「日本宮に陳列された日本磁器」にて、1721年の目録における日本陶磁が掲載された7つの章の構造を示し、各章の記載と王が収集した磁器を照合。なおかつ目録記載の磁器と室内装飾の記述の関係性を探り、1721年の目録に基づき日本宮における日本磁器の陳列の再構築を試みた。 ドレスデンでの現地調査は令和5年3月に実施した。ドレスデン国立美術館磁器コレクション館で磁器の熟覧調査とハンディー顕微鏡観察を行うとともに学芸員や修復家と意見交換した。ザクセン国立文書館等図書館で強王旧蔵品磁器に関る古文書調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本科研でメンバーが調査したアウグスト強王旧蔵品日本陶磁に関する未紹介情報が多分に含まれる、学際的なテーマを扱った研究成果をまとめた論考12本を完成し、本科研オリジナルの報告書(刊行物)への掲載を通じて公開した。同報告書には、令和2年度の研究成果である強王旧蔵品日本陶磁約1200点も共に掲載した。研究論文をその研究の基礎となる全コレクションとともに掲載することによって、高い総合性をそなえた研究報告書をまとめあげることができた。 考古学の研究においては、赤絵町の出土陶片から30点のアウグスト強王旧蔵品との同品を特定したが、これは事前予想をはるかに超える予想外の結果である。またこれら陶片と強王旧蔵品を比較検討した結果、赤絵町遺跡の層位的な相対的年代と、強王旧蔵品の色絵磁器を収録した所蔵品目録に基づく年代的変遷は基本的に矛盾しないことを実証的に解明したことをはじめ、多岐にわたる重要な知見が得られた。 さらに、漆塗り磁器の装飾の材料分析についても、これまで科学的な分析の手が及んでいなかった多数の装飾材料を対象に蛍光X線や光学顕微鏡等による観察を行い、材料を特定した。分析結果から、装飾材料は日本の伝統的な色材を基本としつつ、部分的にヨーロッパで施された修復材料も確認されるなど、多くの新知見が獲得された。 「日本宮」研究では、18世紀の目録の情報を日本陶磁の最新の鑑定結果と照合することにより、日本宮の陳列において肥前磁器が占めた特別な役割を具体的に解明することができた。 ドレスデンの磁器は世界有数の注目度の高いコレクションである。しかしこのテーマについて、所蔵機関が所在する現地言語のドイツ語でさえ、文理に亘る基礎研究の学際的な研究成果が総合的な形で公開された前例はなかったといえよう。今回は、その稀少な情報を和文で公開することができた点も、特筆すべき成果ではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の一部として予定していたドレスデンでの磁器熟覧やザクセン宮廷の古文書の現地調査は、コロナの渡航制限の事由により、予定していた令和3年度に実施できなかったため、令和4年度に行う予定である。 仮に今後もコロナ渡航制限が解除されない場合、アウグスト強王旧蔵18世紀前期輸出磁器の考古学研究を進めるべく赤絵町で調査を行い、さらに国内で実現可能な漆塗り装飾磁器の材料の調査・分析に重点を置く計画に変更することで、目標に掲げた研究成果と同等水準の成果を達成したい。
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