2019 Fiscal Year Annual Research Report
自然科学的調査手法を用いた黄檗様彫刻の国内受容と変容に関する総合的研究
Project/Area Number |
19H01214
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
長谷 洋一 関西大学, 文学部, 教授 (60388410)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (10523756)
岡田 靖 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (40401509)
松島 朝秀 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (60533594)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 黄檗様彫刻 / 中国人仏師 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は長崎・崇福寺大雄宝殿十八羅漢像、京都・萬福寺大雄宝殿十八羅漢像の科学的調査を実施した。 崇福寺十八羅漢像は、「羅漢奉加人数之巻」に延宝5年(1677)の年紀が記され、梅嶺道雪宛南源性派書簡に「唐山仏司三人来塑羅漢」の記述があり、大雄宝殿本尊釈迦三尊像を制作した徐潤陽、宣海錦ほか3人(氏名不詳)の集団によって製作されたとみられる。各像とも構造は用材を適宜組み合わせて箱状に組み上げたもので、日本人仏師による規則性のある寄木造の構造ではないことが判明した。特に頭部は両耳輪幅の角材から三道下までを一木で調製し直接躰部材に接合している。そのため頭部材と躰部の接合は、三道下で弧を描く接合面ではなく、躰部根幹材に直接接合するため、水平方向に走る接合面となっている。そのほか両手や衣も各部の形状を彫刻して接合するのでなく、像の概形に組み上げた角材を彫刻し、不足部分に小角材を補い再度彫刻する製作法となっている。加飾法では、表面に赤色や黒色の下地に、漆喰様のものを糸目友禅の防染に使用する口金付きの絞り袋(コルネ)を用いて盛上げの界線を引いた後に金泥塗とし、その後に部分的に均質な砂粒を金泥に加えたものを塗布していることが判明した。 萬福寺大雄宝殿十八羅漢像は、范道生が寛文3年(1663)立冬に起工し、翌年8月29日に完成したことが知られる。構造はクスノキとみられる一木彫成であり、一部は像の概形を彫出した後に、漆喰様のもので細部の整形を行っていることが判明した。さらに膝前の接合には角ほぞによる「千切」が使用されていたことも確認できた。加飾法では、赤色系、あるいは胡粉様の下地に金泥、彩色を行っている。一部は崇福寺十八羅漢像と同様に盛上げ界線を引いた後に、彩色を行っている。 以上のように、中国人仏師による代表的作品を通した仏像の構造と加飾法の基礎的な情報についての解明を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査寺院は科学的調査に際しては協力的で、十八羅漢像の調査において、至近からの外面観察に加えて、可搬型蛍光X線分析計による色材の判定及び可搬型拡大鏡を用いて彩色層の確認を行うことができた。また各部材の分離面、破損面から可搬型拡大鏡等による材質の推定ができた。透過X線撮影については安全確保が整わず次年度以降の実施となったが、各像とも部材接合面での矧ぎ目が明瞭に確認でき、基本的な構造技法を把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、得られた中国人仏師による仏像の構造と加飾法の基礎的な情報が日本人仏師にどのように受容、変容されたかについて、次年度以降、2段階にわけて各種調査を通して明らかにしていきたい。 范道生の離日後、萬福寺の造像は友山、香甫、康祐、忠円などの京都仏師によって行われたとみられる。なかでも七条仏師康祐は多数の黄檗様彫刻を手掛けているため康祐作品を通じて行う。そのうち黄檗様彫刻の特徴が顕著な静岡・寳林寺二十四天像(寛文7年)、福岡・福厳寺釈迦三尊像(延宝2年)について、前年度と同様の科学的調査を行うことにより受容、変容の具体的様相を明らかにする。黄檗様彫刻受容の早い時期の作例と知られる寳林寺二十四天像は、本尊釈迦三尊像に康祐の造像銘があり、二十四天像も康祐の作とされる。また福厳寺釈迦三尊像、特に迦葉・阿難像は、盛上げの界線、砂粒混じり金泥、彩色など、崇福寺・萬福寺十八羅漢像の特徴を共に具備した作例である。康祐の両作例を対象に康祐が受容した造形の諸特徴や伝統的造像法を踏襲する康祐が変容した特徴を明らかにしていく。 康祐の受容、変容を明らかにしたうえで、次に康祐の子息康傳(27代)、康倫(友学)のうち黄檗様彫刻を取り上げて同様の科学的調査を行う。特に康倫(友学)作の奈良・王龍寺十六羅漢像(宝永7年)は、萬福寺大雄宝殿十八羅漢像の精巧な模刻像であり、黄檗様彫刻の受容、変容の様相をうかがう上で貴重な作例である。 これらの作例を対象的に同様の科学的調査を行うことで基本的情報を集積することで、本課題の研究目的を達成していく予定である。
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Research Products
(1 results)