2021 Fiscal Year Annual Research Report
Study on international propagation and transmedial circulation of the "Heidi phenomenon"
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19H01251
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川島 隆 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10456808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 白 学習院大学, 文学部, 准教授 (50761574)
山村 高淑 北海道大学, 観光学高等研究センター, 教授 (60351376)
大喜 祐太 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (60804151)
葉柳 和則 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (70332856)
中島 亜紀 (西岡亜紀) 立命館大学, 文学部, 教授 (70456276)
西尾 宇広 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (70781962)
新本 史斉 明治大学, 文学部, 専任教授 (80262088)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 「ハイジ」 / 「アルプスの少女」 / スイス像 / メディアミックス / コンテンツ・ツーリズム / 翻訳 / 民衆文化 / 対抗公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本における『ハイジ』受容の諸相を詳らかにする研究を進めた。従来、本邦初訳である1920年の野上彌生子『ハイヂ』に続く第2の邦訳は、1925年の山本憲美『楓物語』だとされ、登場人物名を「ハイジ→楓」のように日本化したこの訳によって日本の本格的な『ハイジ』受容が始まったと理解されることがあったが、実際には、『少女の友』をはじめとする少女雑誌こそが初期の『ハイジ』受容にとって決定的に重要な役割を果たしたことを明らかにした。邦訳が少女雑誌に掲載された最初の例が、『少女の友』の深水正策『少女小説 アルプスの少女』(1924/25)であり、それ以降も「少女小説」ジャンルの作品として『ハイジ』を紹介する例が相次いだ。20世紀前半までは、吉屋信子の小説に典型的に見られるような「エス」(少女同士の恋愛、または恋愛に近い友愛)を尊ぶ文化が少女雑誌においては支配的で、そこでの『ハイジ』受容にもその文化の影響が色濃い。すなわち、ハイジとクララの友愛が強調され、イラストでは二人の身体的接触をともなう親密さが図像化されることが多かった。少女雑誌が衰退した1950年代以降はその状況がラディカルに変化し、男女双方の読者を想定した児童学習雑誌で『ハイジ』が紹介される機会が増え、『ハイジ』は「ハイジとクララの物語」ではなく「ハイジとペーターの物語」へと変貌を遂げる。そのような理解の変化は、戦後日本で数多く出版された『ハイジ』関連本の表紙イラストに誰が描かれるかという点に、はっきりと見て取ることができる。 以上のような研究成果を、2022年夏に予定されている浜松市美術館の「ハイジ展」の展示内容に反映させるべく準備を行った。それ以外では当初の計画通り、(A)「民衆文化」と「対抗公共圏」の概念、(B)スイスの国民神話としての「ハイジ」像、(C)領域横断的な『ハイジ』の《翻訳》過程という三つの柱で研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度もまたコロナ禍により研究状況にはやや遅れが生じている。国際的な人的交流の縮小を受けて、研究のかなりの部分が日本国内で実施可能なものに限定されることになった。特に、以前予定していたイランやトルコ、中国・韓国・台湾など日本以外のアジア地域における『ハイジ』受容に関する研究は、残念ながらあまり進捗していない(韓国やトルコの研究者と個別に電子メールでの情報交換は続けている)。しかし、そのような状況下でも、大阪の国際児童文学館(府立図書館内)や熊本県菊陽町図書館に所蔵されている少女雑誌を集中的に読み、そこに掲載されている初期の『ハイジ』翻訳の数々をテクスト面ならびにイラスト面で精査することができたのは大きな成果だった。高畠華宵、蕗谷虹児、松本かつぢ、高橋真琴などの重要なイラストレーターの仕事を図像学的に分析する作業は大幅に進捗し、高畑勲のアニメ『アルプスの少女ハイジ』(1974)が戦前および戦後の日本の『ハイジ』受容の流れをいわば綜合する作品であることを明らかにできたことが大きい。 また、コロナ禍でオンライン会議の技術が普及したことにより、すでに2019年の段階でコンタクトを得ていたスイスの各団体との交流は促進され、関係が密になり、さまざまな協力プロジェクトが発足することになった。この点は今後の研究の方向性にも影響を与えると予想される。 研究代表者と研究分担者による個別研究は、今年度も概ね順調に推移しており、数多くの論文がさまざまな言語で発表され、オープンアクセスとなって国際的に読者を獲得している(研究業績欄を参照のこと)。研究会のメンバーによる翻訳の実践もまた、前年度の引き続き成果を上げていることを付言しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き(A)「民衆文化」と「対抗公共圏」の概念、(B)スイスの国民神話としての「ハイジ」像、(C)領域横断的な『ハイジ』の《翻訳》過程を三本柱として研究を進める。それとともに、前年度までに引き続き、2022年夏に迫っている浜松市美術館「ハイジ展」の準備を研究会全体で進める。展覧会への出品物の所在確認は概ね済んでおり、当研究会が保管している櫻井コレクション以外のコレクションへの出品交渉を浜松市美術館とともに行う。可能ならば展覧会に合わせ、これまでの研究成果の集約および国内外の新たな研究者との情報共有のため、国際シンポジウムをオンライン方式またはハイブリッド(対面とオンラインの併用)方式で実施する。 上述のように関係が密となったスイスの各団体と、引き続きインターネットを介して交流を続け、各種プロジェクトの実行を支援する。これには、『ハイジ』に関連するさまざまな映像作品の制作支援、国内外の『ハイジ』関連資料のアーカイヴ化の促進、大学や美術館などとの協力にもとづく、一般への啓蒙活動などの文化事業が含まれる。提携パートナーとして想定しているのは、以下の各団体である。
・スイス国立博物館 ・浜松市美術館 ・松本かつぢ資料館 ・ヨハンナ・シュピーリ文書館(スイス児童メディア研究所内) ・ハイジ資料館(Heidiseum Zuerich) ・ハイジ村(Heididorf Maienfeld) ・映像制作集団Filmo ・映像制作集団Narrative Boutique
なお、今年度もあまり進捗させることができなかったアジア地域の『ハイジ』受容に関する研究には、また構想を練り直して取り組む予定である。
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Research Products
(11 results)
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[Book] 変身2022
Author(s)
フランツ・カフカ(川島隆訳)
Total Pages
176
Publisher
KADOKAWA
ISBN
9784041092361