2019 Fiscal Year Annual Research Report
A reconstruction of the late antique and byzantine network infrastructures and dwelling quarters in the territory of Tlos in the middle Xanthos valley
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19H01333
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
浦野 聡 立教大学, 文学部, 教授 (60211778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 光司 名古屋大学, 高等研究院(文), 特任助教 (20793558)
深津 行徳 立教大学, 文学部, 教授 (70208916)
小岩 直人 弘前大学, 教育学部, 教授 (70296002)
樋口 諒 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員研究員 (70827196)
小野 映介 駒澤大学, 文学部, 准教授 (90432228)
長谷川 敬 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (90781055)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 河川舟航 / 史的環境変化 / 港湾施設 / 花粉・珪藻・胞子分析 / 城壁 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度については、現地研究協力者のアクデニス大学教授タネル・コルクート氏らと、今後の研究の進め方について、まず、議論を行った。その結果、トロス市域内の、新規発掘は、これまでの発掘成果の取りまとめが行われていないことから、難しいと判断され、発掘を伴わない、城壁の年代決定調査、および、建築階梯調査を優先して行うこととなった。まずは全体像を確かめるため、現地調査を行い、調査すべき城壁を平面図にマッピングした。 河川流域調査については、エセンチャイ川流域に、調査に最適な沼沢地が残っていないことが問題であるということが明らかになった。そこで、あらたに現地協力者となったスレイマンデミレル大学准教授チェティン・シェンクル氏と議論した結果、エセンチャイ上流から100km北東にあるエベル湖、およびその主水源であるアカルチャイ川流域において、堆積土壌を採取し、花粉化石、珪藻化石、胞子化石の調査を行うとともに、重金属の含有割合調査、鉛同位体比の変遷調査を行うことが、小アジア南西部の中広域の植生、環境変化、人為的活動の痕跡を知るために、最もふさわしいと判断された。エセンチャイ河谷は、河川舟航および陸上輸送で、アカルチャイ川とエベル湖の盆地につながっており、特に、文献資料や考古資料による証明を欠く、中世初期から中世盛期における中広域の自然環境圏、および流通圏の存在を確かめるためには、想定される圏域の両端での調査が不可欠だからである。次年度以降の本格調査に備え、事前調査を行い、堆積土壌の採取とその分析を開始したが、少なくとも過去1万年の土壌は採取できることが想定されている。 倉庫遺跡等、人工建築物と自然環境・交易流通路の関連については、エセンチャイ河谷での調査からエベル湖盆地での調査に対象地域が変更になったことから、倉庫遺跡の探査に加え、橋梁、および、川港遺跡の探査をあらたな調査対象として加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、関係各所との調整、状況に応じた研究計画の修正、および、詳細な研究行程の策定に充てられた。調整の結果、調査対象地域の変更を行うことになった。とりわけ、①アクデニス大学隊がトルコ政府との関係において決定した、トロス遺跡における新規発掘停止と、②エセンチャイ河谷における調査適地の欠如、および複数の考古調査隊との調整作業の不調は、研究対象地の変更に重大な影響を及ぼした。 当初計画によれば、城壁周辺の発掘をトルコ隊が行い、城壁内外の測量を日本隊が行う計画であったが、発掘作業の停止により、日本隊には測量のみが委嘱されることになった。これに対し、日本隊では、城壁自体の非破壊検査を行い、測量のみによっては達せられない城壁の建設・修復年代特定を行う提案をし、アクデニス大学隊の了承を得た。また、次年度以降に計画されていた聖堂と神殿の間の工房地区発掘も行えなくなったが、城壁の外延は、この地区にも達しているので、城壁の非破壊検査によって、年代特定を精密に行えれば、城壁に取り囲まれたアクロポリス南麓だけでなく、この地区の活動時期も特定でき、将来の発掘に指標を与えることが期待されることになった。 その一方、エセンチャイ川の土壌調査が行えなくなったのは、調査適地の欠如だけでなく、この地域全体が、考古調査隊の権利関係が入り組んだ地域であり、調整がうまくいかなかったことにも拠っている。その点、代替地として選定したエベル湖・アカルチャイ川流域は、発掘権の独占関係はなく、堆積土壌採取に最適の地である。新石器時代より今日まで活発な交通の要衝を占めており、古代から中世にかけての人為的活動の痕跡を探るのに適切な調査地である。協力者のシェンクル准教授に対しては、こちらから鉛同位体比の調査を提案するなど、大きな研究成果が期待されることになった。以上のことから、研究計画は、おおむね順調に進展していると考えている
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記のような情勢変化に応じて、トロス市やトロスが属するリキア地方の城壁調査に軸足を置きつつ、環境史調査・交通史調査の調査対象をエセンチャイ河谷から、エベル湖盆地にシフトさせていく。トロス市およびリキアから内陸に離れるので、その中間地帯における調査も必要となるが、そこではすでに欧米の調査隊が、環境史調査を活発に行っており、接合させていくことは十分可能と考えられる。また、エセンチャイ河谷での権利関係の調整が進み、調査適地の広範な探索が可能になれば、内陸から地中海沿岸にかけての、より大きなコンテクストの中における研究が実現するかもしれない。鋭意、実現に努めたい。 城壁調査については、あらたに非破壊検査を導入するための研究費確保が必要になる。建築班を中心として、別途、資金確保を進めており、また、非破壊検査を専門とする研究者の協力も得られることになっている。 倉庫遺跡調査は、調査地がエセンチャイ河谷からエベル湖盆地に移行したこと、また、トロス発掘隊が、発掘を取りやめる決断をしたことにより、実質的に行うことができなくなったばかりか、それを行い、エセンチャイのエコシステムの中に位置づけることが不可能になった。そこで、今後は、同様の遺構がエベル湖・アカルチャイ川流域に残されていないかを調査し、現存が確認されている6つの橋梁遺構(そのうち二つは現在も使用されている)と、橋梁の近くに期待される川港の調査を進めることとする。
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Research Products
(1 results)