2019 Fiscal Year Annual Research Report
アジア・アフリカのメガキャンプにおける難民の経済活動に関する総合的比較研究
Project/Area Number |
19H01391
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
内藤 直樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 准教授 (70467421)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村尾 るみこ 立教大学, 21世紀社会デザイン研究科, 特定課題研究員 (10467425)
久保 忠行 大妻女子大学, 比較文化学部, 准教授 (10723827)
大橋 正明 聖心女子大学, 文学部, 教授 (20257273)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ロヒンギャ難民 / ミャンマー難民 / アンゴラ難民 / 南スーダン難民 / 難民の経済活動 / 第三国定住 / 送金 / Cash Based Intervention |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、東アフリカにおける長期化難民とホスト・コミュニティの人びとが、難民支援にかかわる国際的な制度・組織や難民庇護国の法・制度の影響下で、これまでの地域や国家の枠を越える新たな関係性を創出する動態について考察することにある。そのために東アフリカの難民庇護国(ケニア・ウガンダ・タンザニア)の長期化難民とホストによる脱領域的なネットワークや諸アクターとの協同や対立の様態を比較検討する。 研究代表者と分担者は、それぞれの調査地で人類学や農学的な調査研究および開発援助の実務に従事してきた。令和1年度には当初予定していた場所(内藤:ケニア、村尾:ザンビア、久保:タイ、大橋:バングラデシュ)での現地調査を開始した。とくに大橋が担当するバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプに関する状況は緊急性が高いが、スムースな現地調査の開始ができた。 そこで、研究代表者と分担者が収集した、それぞれの難民キャンプ/定住地における難民の経済活動(refugee economics)の概要を集約するために、日本アフリカ学会中四国支部と連携して、広島にて公開シンポジウムを実施した。その結果、アジアでもアフリカでも、食糧や日用品の援助に関して、従来の現物支給からフードカードやデジタルマネーの支給といったCash Based Intervention(CBI)に変化していることが明らかになった。この現象の背景には、難民に関するグローバルコンパクト(GCR)の影響が考えられる。そこでは難民支援あるいは難民の生が、庇護国やその経済に利得をもたらすことが強調されているためである。次年度以降は、CBIが難民・ホスト・第三国定住者の日常生活に与える影響について検討をおこなう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の内藤直樹(徳島大学)は、東アフリカのケニア北部に設置されたカクマ難民キャンプに隣接するカロベエイ定住地における難民の経済活動に関する現地調査をおこなった。カロベエイ定住地は2016年にスタートしたCBIのモデル地域であり、現在も拡大し続けている。ここでCBIと食糧販売ビジネスの関係に関する現地調査をおこなった。また、研究分担者の村尾るみこ(立教大学)は、南部アフリカのザンビアにおけるアンゴラ難民を対象に、難民の法的な包摂と経済的活動とのあいだの関係性に関する現地調査をおこなった。 また、研究分担者の久保忠行は、タイ北西部山岳地域のミャンマー難民のキャンプを対象に、食糧配給にCBIが導入される中で、難民・ミャンマー国民・ホスト・第三国定住者の絡まりあいが形成される過程に関する現地調査をおこなった。さらに研究分担者の大橋正明は、バングラデシュのロヒンギャ難民を対象にした食糧配給に関するCBIが難民の日常生活に与える影響や、難民-ホスト間の雇用関係に関する現地調査を実施した。 これらの現地調査の結果、アジア・アフリカ各地の難民経済に関して、当初に予定していた以上の民族誌的資料が集まったため、当初の計画よりも早い段階での研究成果公開をおこなった。本科研費と日本アフリカ学会の共催(中四国人類学談話会および村尾るみこが代表の科研費の後援)にて、「難民の経済活動について考えるーアジア・アフリカの難民キャンプでの暮らしを比較するー」シンポジウムを、2020年2月16日に広島市にて開催した。このシンポジウムには難民支援の実務家や研究者を含む多くの市民が参加し、難民経済に関する活発な議論がおこなわれた。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究代表者と分担者による現地調査およびシンポジウムでの議論によって、食糧配給や住宅の提供等にCBIが用いられている傾向が当初の予想より強いことが、アジアでもアフリカでも共通して見られることが明らかになった。すなわち多くの人びとが、従来の現物支給にかわって電子マネーを支給され、使用する状況が急速にすすんでいる。 他方で、多くの難民キャンプでは、識字教育や会計スキル教育とマイクロファイナンス等による起業支援がおこなわれている。難民の商人が生まれることで、彼らがこれまで莫大なコストをかけておこなわれてきた食糧配給事業を代行することが期待されている。さらに、難民商人をめぐる電子マネーの流れをトレースすることで、カネとモノの流れを通じて難民の生をモニターする試みも試行されはじめている。 今後はこうした、難民支援をめぐるCBIの導入が、難民およびホスト社会に与える影響に注目する。また、2020年はじめから世界中に流行し、パンデミック化しているCOVID-19が難民キャンプに与える影響も注視する必要がある。難民キャンプとその周辺は人口稠密地帯であり、そこには脆弱性の高い人びとが暮らしている。また、COVID-19の流行は、各難民キャンプにおけるオペレーションにも大きな影響を与えている。COVID-19が①難民キャンプのオペレーション、および②難民キャンプとその周辺に暮らす人びとの暮らしに与える影響についての地域間比較研究を模索する。
|
Research Products
(11 results)