2020 Fiscal Year Annual Research Report
刑事裁判における争点整理・事実認定の指導指針となるべき実体法解釈論の研究
Project/Area Number |
19H01423
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安田 拓人 京都大学, 法学研究科, 教授 (10293333)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 幸之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40282769)
安藤 久美子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (40510384)
酒巻 匡 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50143350)
小池 信太郎 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (60383949)
樋口 亮介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90345249)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 事実認定 / 判決重視事情 / 責任能力 / 解離性同一性障害 / 抗拒不能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、刑事裁判の争点整理における、当事者の主張を整理するための指針を提示することを目的として、①刑事事実認定に際し重視されるべき事情は何かという問いを解明し、②当該事情を理論的に説明しうる実体法理論を再構築する。そのために、実体法の諸問題を取りあげ、一定の要件を証明するために必要な事実として、判例上、どのようなものが重視されているかにつき分析的検討を行うほか、こうした事実認定に際し重視されている事情につき、それがいかなる命題を立証する意義があるのか、それが理論的に根拠あるものかに関する解明を行うとともに、そうした事情の選別に関する一定の理論的提言を可能ならしめる実体法理論を再構築するものである。 そのために、刑事裁判官の協力のもと、刑事法学者(実体法及び手続法)と精神医学者の緊密な連携を図りながら、実体法の諸問題を取りあげ、一定の要件(例えば責任能力、殺意、共謀等)を証明するために必要な事実として、判例上、どのようなものが重視されているかにつき分析的検討を行うことを予定していた。 今年度も、各分担者において、それぞれの分担部分につき順調な研究の進展があったところであるが、例えば、代表者の安田においては、責任能力の問題のうち、これまでほとんどなされていなかった解離性同一性障害に関する判例分析を網羅的に行い、裁判所における判断において重視されている事情の抽出作業を、分担者の岡田・安藤の懇切な助言のもとに遂行した。また、樋口においては、準強制性交等・わいせつ罪における抗拒不能の要件につき、わが国の裁判例の網羅的な分析を行い、そこでの結論に影響している考慮ファクターを抽出することに成功するなどの成果を上げた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のため、対面での研究会活動、海外調査には支障が出ているが、オンラインによる研究会を通じた共同研究は順調に進捗しており、令和2年度においても、オンラインによる研究会を開催したほか、そこでの問題提起を受け、メールによる引き続きいての充実した意見交換がなされる等、共同研究としての実を上げたところである。 とりわけ分担者の樋口においては、日本刑法学会関西部会冬季例会における共同研究「暴行・脅迫/抗拒不能要件について――性犯罪改正に向けて」において、本共同研究の成果をも反映した形で、中心的な役割を果たし、成果を上げた。また、解離性障害をめぐる共同研究の成果は、安田において、判例評論誌上における判例研究として結実し、翌年度に刊行された裁判官による論考において大きく取り上げられるなど、実務的にも反響を呼んだところである。 こうしたことから、研究は(2)おおむね順調に進展しているものと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度からは、研究代表者の安田において、法学教室誌上において、「刑法総論の基礎にあるもの」という連載を担当する。ここでは、学習用雑誌としての同誌の性格上、本共同研究の成果を直接反映させた論考を出すことは想定されないが、その連載を通じて改めて向き合うこととなる基礎理論的問題との視線の往復を通じて、さらに本共同研究が一層充実していくことが想定される。 コロナ禍が収束すれば、海外調査を遂行し、当初予定していたとおり、海外における同じ方向性での研究成果から学び、さらに検討を深めることも可能となりうるが、この点に関する見通しは不確かである。 それゆえ、来年度においても、オンラインでの実施も視野にいれて、引き続き裁判官にも加わって頂いたうえでの共同研究を可能な限り頻回に開催し、それぞれの分担部分における検討成果を持ち寄り、相互に批判的検討を行うことにより、最終成果へとつなげていくことが、最終年度としての来年度における目標となる。
|