2019 Fiscal Year Annual Research Report
マッチング市場設計における情報収集・開示と選好内生化に関する研究
Project/Area Number |
19H01469
|
Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
川越 敏司 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (80272277)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松八重 泰輔 中央大学, 経済学部, 助教 (00823783)
糟谷 祐介 神戸大学, 経済学研究科, 講師 (20792419)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | マッチング理論 / 情報収集 / 選好の内生化 / 学校選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
マッチング相手の属性等に関する情報が不完備であるために、自分自身の選好がまだ定まっていない段階で、各主体は面談等のコストのかかる情報収集活動を行い、その情報に基づいて選好が事後的に改訂されうるような環境を考える。そのような環境の下で最適なマッチング方式を理論・実験的に検討することが本研究の課題である。 そこで本年度は、まず先行研究の整理を行った。先行研究はいずれも応募者間で選好情報が不確実であるという状況を取り扱っていることがわかった。つまり、学校選択制マッチングでいえば、応募者の生徒らは互いの選好について不完備情報の状態にあるということである。そのような状況下で、例えば、Artemov (2019)の研究では、受入保留(DA)方式等のマッチング方式それぞれにおける、主体がコストのかかる情報収集を行うかどうかのしきい値の比較がなされている。そのしきい値は、社会的に最適なレベルより低くなる場合があり、したがって情報収集しなくてもよい主体までもがコストをかけて情報収集するために厚生損失が生じうる可能性が指摘されている。 ここから、受入側(学校選択でいえば学校側)がその優先順位を事前に公表することで厚生改善できる可能性が示唆される。この考えに基づけば、応募者側の選好だけでなく、受入側の優先順位についても情報収集を行うというモデル化も可能だろう。また、受入側の定員についても、現実の多くのマッチング状況では固定的なものではなく、応募状況などに応じてフレキシブルに増加される傾向がある。すると、定員についても情報収集の対象になりうるであろう。現在は、こうした情報収集活動についてモデル分析するという検討を続けている。 研究分担者とは定期的にミーティングを行い、また関連研究者を招いて「マーケットデザインの実践」と題するコンファレンスを開催し、マッチング理論の専門家と意見交換を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、マッチング相手の属性に関する情報が不完備である状況で、各主体が戦略的な情報収集活動を通じて選好を事後的に改訂するという問題に対し、マッチング理論に関する既存文献について分析を行い、それに基づいて、選好が事後的に改訂されるという前提の下での耐戦略性や安定性といったマッチング理論における重要概念の再定義を行い、こうした性質を満たすマッチング方式を開発することが目標であった。 しかし、先行研究ではもっぱら応募者間で選好情報に関するコストのかかる情報収集についてしか研究されておらず、受入側の優先順位や定員に関する情報収集については手が付いていない状況であった。そこで、こうした面での情報収集活動のモデル化について新たに検討する必要があったため、理論的な研究が予定通りには完結しなかった面があった。 また、成果の一部を報告する予定だった日本経済学会春季大会が台風19号接近のために中止になったことも、研究が計画通りに進まなかった原因の1つである。 加えて、併せて年度末に戦略的な情報収集活動に関する予備的実験を開始する計画であったが、ちょうどコロナウィルス感染拡大への危惧から、被験者を集めての実験実施が困難であったため、こちらの面でも研究が予定通りに進行しなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度にやり残した様々な情報収集活動のモデル化可能性の検討を終了させる。その上で、実験によって検討すべきマッチング・モデルを確定し、その下で生じうる様々な戦略的問題をゲーム理論的に分析する。例えば、どの相手から先に面談に訪問するか、いつ情報収集活動を終了するかといった動学的問題や、受入側のコミットメント戦略の有効性などが分析上の焦点になる。 また、応募者間の選好情報収集において、応募者同士は独立な競争相手であるとは限らず、友人関係にあるなど、選好に外部性がある可能性もある。友人とは同じ学校に行きたいが、嫌いな人とは一緒になりたくないといったことである。こうした選好の外部性の存在が情報収集活動に与える影響などについても検討する余地がある。 さらに、耐戦略性を満たす受入保留(DA)方式では、真の選好を提出することが支配戦略であり、その意味で他の応募者の選好を知る必要はないにもかかわらず、現実にはDA方式の下でも情報収集が行われている。同じく耐戦略性を満たすトップ・トレーディング・サイクル(TTC)方式ともに、耐戦略性と情報収集の関係についてもさらに検討していく必要がある。 このように本年度は前年度の理論研究上の遅れを取り戻すと同時に、新しい論点も加えて、最終的に実験的に検討可能な仮説を導き出す。また、こうした実験仮説を検証するために、コロナウィルス感染拡大防止の観点から安全に実験が実施できる方法を模索しつつ、本格的な実験を計画し、実施する予定である。これらが本年度の目標である。
|
Research Products
(4 results)