2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Cultural Property of War Disaster Records-For Tokashiki Village, Okinawa Prefecture
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19H01555
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
麦倉 哲 岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (70200235)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 戦争文化財 / 戦争災害 / 集団自決 / 処刑死 / 集団強制死 / 災害検証 / 災害伝承 / 命の格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の実績として、学会報告2回、学会のラウンドテーブルでの登壇者1回を行った。第一に、日本社会病理学会第38回大会(2022年11月)において実施された「ラウンドテーブル「『最悪の社会問題・社会病理』としての戦争」において麦倉は、「戦死・戦没者の死の検証と『生命の格差』」の題で報告した。戦時下で戦場となる地にいる人びとの生命は、極度の危険にさらされる。戦場となった沖縄県渡嘉敷村では、高齢者、女性、子どもなどの脆弱な立場に置かれているかどうかで、生命の格差があることを報告し、学会の討議に供した。 第二に、上記の日本社会病理学会大会の自由報告において麦倉は、「戦争の社会病理―子どもが犠牲となること」と題して報告した。近隣住民とともに助け合っていた住民は、軍の命令を受けて、自主避難していた防空壕や山裾壕や山谷の避難小屋を放棄して、島内の最北部の山間地へと移動し集結するように求められた。こうした命令により、子どもの保護することが著しく困難となり、また、軍国主義教育により敵国の捕虜となることは事実上禁じられ、さらには集団自決が求められたために、子どもを連れていた周辺の大人たちは、子どものために子どもを死なせたのである。 第三に、日本社会学会第95回大会(2022年11月)の自由報告において麦倉は、「戦時下の渡嘉敷村における日本兵の死ー戦争の社会病理」と題して発表した。日本軍の兵士は、敵の攻撃や敵が配置した地雷による死のほか、特に多かったのが傷病死である。日本軍の兵站の欠乏はこの島でも切実で、とくに下位に位置付けられた兵士は、餓死のような状態で死んでいった。怨恨の対象である上官を射殺し、最後に自害するケースも証言された。島での戦闘はこのように、敵との闘いの以外の悲惨な死が起こったのである。こうした点からも、戦争の社会病理が浮かび上がってくるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは、コロナ感染症の渦中を経験し、研究活動の一部について延期を余儀なくされた。そのために、研究費を一部繰り延べし、次年度に、未達成の調査を実施することになった。 沖縄県における活動が一定の制約を受ける中で、沖縄県における戦災調査との比較において、他の都道府県での戦争体験資料を収集した。また戦災死と災害(自然災害)死における犠牲死の伝承という観点で、岩手県大槌町での伝承活動とも連動させて研究活動をした。本プロジェクトの活動が、戦災体験の教育的活用を含意しているので、岩手県での戦災と震災の伝承活動も研究遂行上有意義と思われた。また、3月28日を慰霊の日とする沖縄県渡嘉敷村での戦災を語り継ぐ伝承活動も2018年に開始し、それ以降毎年、継続的に活動してきた。戦災の犠牲死を、教育や伝承の観点で掘り下げる有益な研究活動であったと考えられる。 そうした中で、渡嘉敷村での調査、沖縄本島での調査、沖縄県伊江村での調査、沖縄県立図書館・那覇市立図書館はじめ都道府県公立図書館、沖縄県公文書館、国会図書館などでの資料収集調査も実施できた。5年間で、予定通りの約100人の戦争体験者や戦闘体験者の家族への、多くは一人につき複数回の聴き取り調査を実施することができつつある。 東日本大震災13回忌写真展・作品展(2022年度)に続き「被災13年慰霊のための写真展・作品展」(2023年度)を準備中である。震災と関連して、太平洋戦争の戦没者について資料展示を実施したい。大槌町で戦没した562人について、戦没地に関する分析結果を展示したい。その中で、出征地が南洋やフィリピンが多いことがわかった。また、北方の厳寒の地であるアッツ島での全滅には、東北地方からの出征者が多く含まれていることが明らかになった。総じて、太平洋海上での戦没地が多く、遺骨が帰ってこない現実が出征地の傾向と重なることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトは、課題遂行期間中にコロナ感染症の影響を受け、戦争体験者を対象とする聞き取り調査において多大なる影響を受け、研究費の繰り延べ承認を受けてきた。 とはいえ、一定のペースで研究事業を実施しつつ、毎年の学会発表などの成果を上げてきた。研究期間の終盤期を迎えつつある現状において、予定した残りのフィールドワークを実施しつつ、プロジェクト協力者と連携して、最終的な成果へと結び付けたい。コロナの一定の収束を受けて、残期間での精力的な研究活動を期したい所存である。また、このプロジェクトの成果の普及・活用を促す教育教材化のプロジェクトへと飛躍させていきたい。 今後の課題として、次年度の最終年度に向けて最終の成果報告書をまとめている。これまでの調査研究における分析結果を集大成している。これまで、学会発表し、論文や、各種原稿や、研究発表資料としたものを編集して、最終レポートとする予定である。また、教育・学習に展開できる教材としての成果物を執筆中である。その中で、調査研究調査の成果部分については、一般の人が閲覧できるような形で、公開できるかたちにしていきたい。沖縄県渡嘉敷村における戦争文化財学習資料として刊行できるように、さらなる精査を加えつつ、関連する関係者と協議のうえで遂行していきたい。
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