2019 Fiscal Year Annual Research Report
Global Care Migration Channel and Japanese Immigration Policy in Transition
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19H01560
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安里 和晃 京都大学, 文学研究科, 准教授 (00465957)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塚田 典子 日本大学, 商学部, 教授 (10322497)
結城 康博 淑徳大学, 総合福祉学部, 教授 (10458622)
大崎 千秋 名古屋柳城短期大学, その他部局等, 准教授(移行) (80310598)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 介護 / 経済連携協定 / 技能実習 / 介護留学 / 外国人労働者 / 移住労働者 / 特定技能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、複雑化する外国人介護従事者の国際移動を整理し、日本における5つの受け入れ制度(チャネル)比較と実態を明らかにし、人材育成に及ぼす影響を検討することが目的である。これまで日本の介護人材の受け入れはごくわずかであり、グローバルな介護従事者の国際移動比較研究においては十分な位置づけがなされてこなかった。ところが近年になって5つの受け入れチャネルを通じた2万人以上の外国人介護従事者の存在は看過できない存在となった。こうした状況をうけ、昨年度は経済連携協定の介護職、近年始まった技能実習介護、介護留学、さらには2019年に始まった特定技能の制度運用を日本と送り出し国の双方から実態調査を行った。例えば、送り出し各国大使館の担当者からの聞き取りや、技能実習介護におけるケアの質の担保という観点から実際に指導に入りながら参与観察も行っている。 また、7月には東京においてメコンマイグレーションネットワークと国際会議を共同開催し、ベトナム、ミャンマー、カンボジアから斡旋業協会の会長職、各国のNGO、受け入れ機関、大使館職員などを招へいした。関係者が一堂に会するのは大変に珍しく、NGOや斡旋業協会など異なる立場からの議論が活発に交わされた。こうした新しい成果は国内の学会や国際学会などで報告された。また、介護の立場からもジャーナルや本という形で出版された。特に、技能実習制度における斡旋構造や失踪者に関する論文は、エビデンスが少ないため詳細が不明な点が多かったが、一定の知見を加えることができたと考えられる。それ以外にも、研究代表者は京都市多文化共生プロジェクトチームのアドバイザーを務めたほか、京都府や教育委員会と共同でシンポジウムや研究会を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は複雑化する外国人介護従事者の国際移動を整理し、介護人材の育成と労働環境に着眼し、それらの制度運用について検討する。そして、制度と実態の乖離や問題点を指摘することが目的であった。介護人材の受け入れは、2008年に始まった経済連携協定に加え、技能実習、留学、特定技能が相次いで設立され、送り出し国も従来のフィリピン、インドネシア、ベトナムから重複・拡大し、介護従事者の国際斡旋網は複雑化した。異なる制度が日本や送り出し国でどのように運用されているのか、特に技能実習や留学の高額斡旋料と低賃金の問題が指摘されているため、こうした着眼に立って現地調査や聞き取りを進めてきた。聞き取り調査は大使館、NGO、送り出し国政府、斡旋業者、移住労働者当事者など多様なステークホールダーから聞き取りを進めることができた。さらにこれまでの調査成果を公開すべく、国際会議の開催にまでこぎつけたのは最大の成果で、十分な進捗を示すものといえる。 しかし、3月はコロナウイルスの影響で、招へいされていた国際会議がキャンセルされたり、大使との面談が決まっていたベトナム調査がキャンセルされたため、一部調査に支障が出た。同時に、移民政策は常に変化するものであり、こうした状況のなかで5つのチャネルで来日した外国人介護従事者が、どのような影響を受け就労しているのかといった新たな課題がでてきた。そこで、年度末にはCOVID-19と外国人労働者の雇用に関する調査を始めることを決め、新たな課題に向けた調査を実施し始めた。そういう意味では、調査の変更はあったが、遅滞をもたらすものではなく、新たに社会的な意義のある調査を始めることができたと評価している。次年度以降につなげる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、2019年にはじまった特定技能による介護人材の受け入れが本格化するであろう。したがって、制度がどのように運用されるのか、制度通り実施されないのであれば、それは何が原因なのかについて検討したい。制度が出そろった段階に来ていることを踏まえ、制度と運用(実態)を明らかにし、それぞれを比較して、両者になぜ乖離が生じるのか原因を検討する。その際に重要となるのが送り出し国の動向である。相手国の動向は必ずしも日本政府の設計した制度通りにはならない。そういった場合には制度と運用の間に乖離が生じることになる。送り出し国の動向を十分に調査したうえで、制度がどう展開されるのかについて検証したい。 技能実習介護も人数的には経済連携協定による受け入れを超えた。技能実習は形骸化した国際貢献策として、国内外から批判も多い中、介護がはじめられた。介護の開始に当たっては、介護固有の要件の中で、介護の質が担保されるような制度設計がなされているが、現場ではどのように人材育成がなされているのか、生じる課題についても明らかにしたい。また、同様に経済連携協定や技能実習、留学など制度の違いで、人材育成のあり方の違い、運用についても論じるに値するであろう。 2019年に始まった外国人住民を対象とした総合的対応策においては、社会包摂的な政策メニューが並ぶようになった。特定技能の実施は、中間的な技能水準を持つ者の受け入れで、長期滞在も可能となることから、長期定住を促す可能性がある。総合的対応策のモニタリングを通じて、制度がどのように運用されていくのかについて検討を行う。こうした諸点は、アジア型の移民レジームである短期滞在型の移住労働の変化でもある。また、こうした変化は、台湾や韓国でもみられるものであり、国際比較も念頭に置くと学術的にも深みが出ると考えられ、調査・研究を進めたい。
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