2019 Fiscal Year Annual Research Report
児童養護施設実践のソーシャルワーク化に向けた支援環境の整備に関する研究
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19H01596
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
北川 清一 明治学院大学, 社会学部, 教授 (50128849)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲垣 美加子 淑徳大学, 総合福祉学部, 教授 (30318688)
川向 雅弘 聖隷クリストファー大学, 社会福祉学部, 准教授 (80737841)
耕田 昭子 明治学院大学, 社会学部, 助手 (20772578)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 施設養護 / ソーシャルワーク / ソーシャルワーク組織 / アセスメント / スーパービジョン / ケース管理責任 / 家庭支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会福祉制度の伝統的な実践現場として機能する生活型施設の中で中核的役割を担ってきた児童養護施設における実践の質的保証を維持するにあたり、支援の形態的な特徴をなす「集団」生活を媒介(helping media)としたソーシャルワーク実践の展開を担える人材育成とスーパービジョンの取り込み方法について検討を加えた。 まず、児童養護施設に就労する生活支援スタッフ間でソーシャルワーク専門職としてのアイデンティティ(identity)の共有を図り、それを日々の支援過程で内実化できる実践環境を整える方法の探求に努めた。そのため、救世軍機恵子寮、救世軍世光寮、別府平和園および札幌市役所、札幌市児童相談所、複数の元児童相談所児童福祉司との協議を重ね、研究計画に沿って「事例」の収集と「事例分析」研究を繰り返し、ヒューマンエラーが続発する支援過程の閉塞状況をもたらす「障壁」について明らかにした。そして、そのような実態の超克を図るため、具体的には、ソーシャルワーク専門職に相応しい「課題解決能力の育成」を促すスーパービジョンの確立を図る「施設養護の過程を支えるスーパービジョンシステム」の構築に向け、支援計画を策定する作業のIT化を促進する「方略」を示すことに努めた。 なお、「方略」としてデザインした視座の妥当性・汎用可能性を検証するため、ここ10年以上にわたり研究交流を継続してきたヨーク大学(カナダ・トロント)のソーシャルワーク学部教授・A.Matsuoka博士の研究室を訪ね、意見交換を行った。その成果を踏まえ、混迷を深める児童養護施設実践の現状打開に繋がる新たな視座の必要を説くため、家族支援を包摂した実践理論の生成に努めた。 このような研究の成果の一端として、研究代表者の北川清一が、ミネルヴァ書房から『ソーシャルワーカーのための養護原理-小規模化・家庭的養育をどう捉えるか-』を上梓した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
わが国の社会福祉現場、とりわけ、本研究が題材として取りあげる児童養護施設におけるスーパービジョン(以下、SV)の過程で、ワーカーが抱える現実的問題の一つに「効率(組織のミッション)」対「非効率(ワーカーのミッション)」とも表現される板挟み状態の如き混乱がある。しかも、今やワーカーとして「組織のミッション」と「折り合いをつける」仕事ぶりは恒常化した感もある。その意味でソーシャルワークの「価値」に依拠する実践、すなわち、原点に立ち戻る必要を実感できた1年目であった。ヨーク大学(カナダ)訪問の計画は、「折り合い」をつけざるを得ない実践現場(組織)があった場合、カナダでは、どのようにSVが展開され、人材の育成が図られているのかを確認する点にあった。しかし、訪問では想定外の問題提起を受けることになった。 一つは、①SVの考え方の違いであり、なぜ「組織のミッション」(施設としての方針)が効率的で「ワーカーのミッション」が非効率的なのかの問いかけであり、②組織の方針は、社会福祉関連団体である限り当事者の「安寧」の確保が「ミッション」の第一義にあるべきだが、その「ミッション」がワーカーとして雇われた団体と対立関係に陥ることは考えにくいと言うものであった。 二つは、ソーシャルワークの本来の目的であるSocial Justice(社会公正)で重視される抑圧、社会・政治・経済上の不公平や不均衡の是正に貢献するよう機能する組織である限りミッションの対立は起こらないという問題の投げかけであった。 三つは、仮に対立する場合、ワーカーはCritical Social Workを基礎に実践し、学生はShadowingから始まり徐々に独り立ちして行くが、SVでは、組織の問題について、ワーカーとしていかに対処すべきかの理論や経験を手がかりに指導し、専門的実践をいかに展開すべきかの過程を伴走すると教示された。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目は、当初計画通り、ソーシャルワーカーとしての人材養成とスーパービジョンの役割および機能について、さらに、わが国の社会福祉現場(とりわけ児童養護施設)に側聞できるソーシャルワーカーという専門職の「自律性」が著しく阻害される要因を、現場関係者との研究協議を継続する中で明らかにできた。 その過程で、研究代表者が、札幌市で起きた家族内で起きた幼女虐待死事件に対する第三者評価委員会から示された課題提起について、札幌市および札幌市児童相談所から助言を求められる機会を得た。子どもと家族を支援する専門職および組織として機能不全状態に陥った実態に対し、その是正に向けスーパービジョンの視点から本研究が貢献できる可能性について、2019年度の取り組みと同様に、現場関係者との研究協議を継続し、道筋を明らかにして行きたい。 なお、その際に取りあげるべきテーマをキーワードとして示すなら「児童養護施設実践のソーシャルワーク化」「スーパービジョンのシステム化」「ケース管理責任(ケアマネジメント)体制の確立」「施設養護の内部質保障システム」「施設養護の一貫性と退所後支援の連続性」「アセスメントデータの管理と活用法」「多職種との連携と本人(家族)支援」となる。このような切り口から進める本年度の研究成果として「(仮称)施設養護におけるスーパービジョン過程を支えるPCシステム・モデル」を取りまとめ、その汎用に向けた実用性を検証し、PCソフトとして設計する「基本構造」をデザインすることに努めたい。
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Research Products
(1 results)