2020 Fiscal Year Annual Research Report
超高齢社会の健康寿命を訴求したユニバーサル仕様の衣服設計―生体情報を指標に―
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19H01616
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
諸岡 晴美 京都女子大学, 家政学部, 教授 (40200464)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三野 たまき 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (00192360)
芝崎 学 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (00314526)
佐藤 真理子 文化学園大学, 服装学部, 教授 (10409336)
深沢 太香子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90423574)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 超高齢社会 / 健康寿命 / ユニバーサル仕様 / 衣服設計 / 生体情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度においては,昨年度の研究成果を雑誌論文として発表する一方,高齢者や障害者の身体機能の低下を支援する「ユニバーサル仕様」の衣服設計について,下記の各観点からさらに研究を進めた. A.温熱的アプローチ:日本人高齢女性の身体各部位における温度感受性を全身で測定し,温覚よりも冷覚の感受性が高いことを明らかにした.また,その温度感受性には身体部位差が認められ,特に,下腿の温度感受性が,他部位と比較して低いことを明らかにした.蒸散性熱放散機能の低いスポーツ観戦者のための暑熱環境下での熱放散促進方法としてミストスプレー噴霧を提案し,皮膚温や温冷感に及ぼす影響を検討した. 一方,発汗機能が低下した高齢者や障害者に対して,安価で簡便な方策として昨年度開発した冷却ベストをさらに改善し,体温に近似した37℃の暑熱環境下であっても,クーリング効果が大きいことを確認した. B.圧的アプローチ:パラリンピック競技の一つであるゴールボール競技における腰プロテクター付パンツについて,圧衝撃性の観点から検討を行った.一方,アクティブシニアのための筋疲労軽減効果をもつコンプレッション型ランニングパンツの設計を目的として,筋電図・心電図等の測定から現流通品の課題点を明らかにするとともに,三次元計測装置を用いた膝屈曲タイプのタイツを設計し,これに局所圧を加えたタイツを開発した.また,高齢者用の体脂肪燃焼効果をもつ着圧ウエアの開発を目的として,着圧の程度や脚部長さの異なる下衣を用いて,有酸素運動による実験を行った. C.触的アプローチ:褥瘡予防の観点から,下半身における局所蒸散量の計測を行い,鼠径部や膝窩など関節を曲げた際に折り込まれる部位で値が大きいこと,また,車いす座面素材である人工皮革およびビニール素材を用いて,皮膚-摩擦実験を行い,高湿度下における皮膚への影響を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況については,以下の理由により「おおむね順調に進展している」と判断される. A. 温熱的アプローチ:日本人高齢女性の下腿および足における冷覚感受性,加齢に伴う身体各部の温冷覚感受性の変化等について明らかにしてきている.また,脊髄損傷者の体温調節,血液循環反応を研究する中で,起立性ストレスと熱ストレスが同時に生じた場合の局所脳かん流における高炭酸ガス誘発性上昇を明らかにした.また,昨年度から実施している高齢者の熱中症予防対策として試作開発した冷却ベストを改善するとともに,顕熱移動を伴わない37℃の暑熱環境下において,そのクーリング効果を検証して論文にまとめた. B. 圧的アプローチ:昨年度までに行ったつまずき予防靴下のための研究に加え,5本指靴下の歩行安定性についても先丸靴下との比較において検討を開始している.また,脂質消費に対する有酸素運動の季節変化および胸部の被覆面積が圧感覚に及ぼす影響および高齢者の有酸素運動における着圧レギンスの体脂肪燃焼について発表している.さらに,ゴールボール競技における腰プロテクター付パンツについて,温熱的特性に加え,圧衝撃緩和性の観点から検討した.一方,アクティブシニアのために,生体負荷軽減効果をもつコンプレッション型ランニングタイツの課題点を明らかにし,その設計指針を導出した. C.触的アプローチ:車椅子利用者の車椅子座面素材を検討するために,下半身の蒸散量分布や,車いす着座時の蒸れや皮膚摩擦実験を行い,詳細な解析を開始している. 以上,「ユニバーサル仕様」衣服設計に向けた基礎的研究から発展・開発研究まで,着実に研究が行われている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては,多くの被験者実験を必要とする.コロナ禍において,かなりの困難を伴っているが,緊急事態宣言やまん延防止等の期間を除き,感染対策を十分に行いながら実験を行っている.令和3年度は,研究期間の最終年度に当たるため,これまでの研究結果の詳細な解析,追加データの採取,検証実験の他,さらなる発展・開発研究へと展開を行うために継続的に研究を推進していく計画である. A. 温熱的アプローチ:若齢者から高齢者を対象として,これまでに集積された体表の温熱感覚データを用いて,温度感受性における身体各部位差および年齢差を詳細に解析する.昨年に引きつづき,脊髄損傷者における暑熱負荷時の体温調節および血液循環反応についてデータ数を追加するとともに,ミストスプレー使用による熱放散効果を身体部位差を中心として詳細に解析する. これまでの研究において開発した冷却ベストをさらに改善し,また直射日光下を想定して,冷却帽子についてもその効果を検討する計画である. B.圧的アプローチ:胸部の圧強度と圧感覚との関係および有酸素運動の季節変動との関係を明らかにし,弾性ウエア(上衣)の設計へと結びつける計画である.また,歩行は高齢者の健康寿命を延伸する上において非常に重要である.サルコペニアを最小にするためにも歩きやすい衣服の開発が重要である.つまずき予防靴下の設計に関する研究を基礎に,歩行動態の解析,重心動揺,重心バランス,足底圧中心軌跡(COP)等から5本指靴下の歩行安定性に関する研究を行う.高齢者対応の歩行を容易にするハーフレギンスについても検討を行う. C.触的アプローチ:車椅子利用者における衣服素材による皮膚障害を想定し,衣服素材の種類や環境湿度等の各要因が摩擦後の皮膚表面微細構造に及ぼす影響を明らかにし,得られた結果をまとめる計画である.
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Research Products
(25 results)