2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the structure of literacy of learners in Japanese with diverse linguistic backgrounds through multifaceted analysis
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19H01671
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
高橋 登 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00188038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 知靖 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (30251614)
脇中 起余子 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 准教授 (30757547)
井坂 行男 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (40314439)
柴山 真琴 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (40350566)
武居 渡 金沢大学, 学校教育系, 教授 (70322112)
ビアルケ 千咲 東京経済大学, 全学共通教育センター, 特任講師 (70407188)
森 兼隆 大阪教育大学, 教育学部, 助教 (70837202)
池上 摩希子 早稲田大学, 国際学術院(日本語教育研究科), 教授 (80409721)
古川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (80731801)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語のリテラシーの獲得 / ATLAN / 作文の分析 / 外国にルーツのある児童生徒 / 聴覚障がい児 / 書き言葉 / 海外補習学校在籍児童 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,次の2つのことを行った。 第1は,これまで進めてきた作文の分析システムの整備である。このシステムを用い,小学校2・4・6年生が書いた作文を分析した。作文は2つのジャンルからなっていた。ひとつめは4コマ漫画に基づいて物語を書く物語作文,もうひとつは地球がマスクをし,工場や自動車からは煤煙や排気ガスが排出されている絵を見て,それについて意見を書いてもらう意見作文である。作文中で用いられている構文と節の使用状況について分析が行われた。構文は受動態や使役,使役受身,敬語,二重否定,補助動詞などのように,複雑で微妙な意味の違いを持った文を構成する上で必要とされるものであり,節の方は,文同士をつなげて副詞節などを構成することにより,複雑な論理を展開するために用いられるものである。どちらも学年の上昇とともに多く使われるようになるが,作文の種類によってそのパターンには違いが見られ,複雑な構文は物語作文で多く用いられ,副詞節は意見作文で多く使われていることが明らかになった。2種類の作文の比較から,子ども達は小学校段階を通じ,高度で複雑な文法の能力を身につけていき,そのようにして身につけた文法の能力を表現すべき内容に応じて使い分けることで,目的に応じて効果的で洗練された文章を書くことができるようになっていくことが示唆された。 第2は,外国にルーツのある児童・生徒の日本語能力のアセスメントである。われわれがこれまで開発してきたATLAN語彙検査を用い,近畿圏O市在住の小1から中3まで,約300名の日本語能力を査定した。その結果,小学校段階では概ね当該学年の下位レベルから2学年下の平均レベルであるのに対し,中学校段階では概ね小学校4年生の平均レベルにとどまっており,停滞が目立った。また,語彙の日常生活での日本語使用との関連は薄く,日本への滞在年数との関連も薄かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,多様な言語的環境における子ども達の日本語リテラシーの獲得過程を明らかにすること,その際にはわれわれがこれまで開発してきた,また開発中のアセスメントツールを用いて行うことを目的として,研究を進めてきた。言語環境の多様性を考慮し,聴覚障がい児,海外で現地校に通いつつ日本語の読み書きの習得を目指す海外補習学校在籍児,および日本で生活する外国にルーツのある子ども達を対象とする予定であった。 これまでに,聴覚障がい児に関してはすでに就学前後の読み能力の特徴を聴児との比較において明らかにし,また,補習学校在籍児については小学校段階の読み能力の発達過程についてデータを収集してきた。これに加え,2020年度は日本国内の外国にルーツのある小・中学生の言語能力について,教育委員会の協力も得つつデータを収集することができた。こうした多様な環境の下で育つ子ども達の日本語リテラシーの獲得について,包括的なイメージを提示するためには,もっと多面的なデータを収集すること,および実際の教育現場との連携を進めることなど課題は多いが,そのための入り口に立つことはできたと考えている。 また,学童期を中心とした子ども達の読み書き能力のアセスメントツールとして,われわれはインターネットで利用可能な言語能力検査ATLANを開発してきたが,これに加え,書き言葉の産出状況から子ども達の言語能力を測ることを目的とした作文の分析システムを開発中である。同システムは作文の自動処理を目指すものではなく,妥当性と信頼性を備えた分析カテゴリと,手動での分析を補助するコンピュータシステムの組み合わせでできている。母語児の分析から,書き言葉の発達について興味深い結果も得られている。次のステップとして,こうしたツールを用いて多様な言語環境の下で育つ子ども達の書き言葉,作文の特徴を明らかにすることを目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトでは,アセスメントツールの整備と並行しつつ,多様な言語環境の子ども達の日本語リテラシーの発達過程を明らかにすることを目指してきた。アセスメントツールとしてのATLANに関しては,語彙・文法・漢字・漢字の書き取り・音韻意識と,検査の整備も終了している。一部の課題については論文などの形で開発経緯の公開が済んでいないが,中核部分に関してはすべて論文の形で公表済みである。 今後の課題として以下の2点が挙げられる。第1は利便性の向上,とりわけ集団で実施する際の利便性の向上である。ATLANは集団での実施も可能なように開発してきたが,子ども達だけで検査が実施できるようにするためのユーザーインターフェイスについては検討の余地が残っている。第2の点は,検査結果についてのフィードバック方法についてである。現状は得点とそれぞれの学年の得点の分布のみをpdfファイルの形でフィードバックしているが,受検者や保護者・教員に対しては,結果を基にした助言等も行う必要があると考えている。これらの点に関しては,学校現場等とのより密接な協働が必要であり,現在,そのための調整を行っているところである。 また,書き言葉のアセスメントのための作文分析システムに関しては,ようやく開発が完了し,現在は母語児の作文の分析を行っている最中である。この基準データとの比較で次のステップでは多様な言語環境の子ども達の作文を分析し,その特徴を明らかにすることが必要である。 いずれの課題についても,学校や教育委員会等との連携・協働が必要であり,そうした関係も構築しつつ進める必要がある。関係構築は時間がかかるが,検査類の整備が終わりつつある現在,プロジェクトの成否はその点にあると認識しており,注力している。
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