2021 Fiscal Year Annual Research Report
Global structure of solutions for differential equations of singular perturbation type and exact WKB analysis
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19H01794
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
竹井 義次 同志社大学, 理工学部, 教授 (00212019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 完全WKB解析 / ホロノミック系 / 非遺伝性変わり点 / 差分方程式 / ベッセル関数 / 時間依存シュレディンガー方程式 / 確率微分方程式 / ファインマン・カッツの定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響で外国出張が難しく、海外の研究協力者との研究連絡に支障が生じ研究計画の達成に遅れが生じた。こうした困難な状況の中、以下のような研究成果が得られた。
昨年度から開始した差分方程式に対する完全WKB解析については、大学院生の伊藤駿君が、私の指導の下に、積分表示式を利用してベッセル関数の満たす差分方程式の完全WKB解析的な構造を調べた。その結果、ベッセルの差分方程式のWKB解やストークス幾何、接続公式等の構造が明らかになると共に、ストークス曲線の交点から無限本の新しいストークス曲線が現れることが見出された。さらに、竹井優美子氏(茨城高専)との共同研究では、こうした差分方程式に対する完全WKB解析が一般のホロノミック系に対する完全WKB解析の一般論にどの程度有効であるかを検証するべく、ガウスの超幾何関数とその合流型の積分表示式に対して、差分方程式の完全WKB解析の視点から隣接関係式も含めて新たな考察を加えた。一方、大学院生の山下恭平君との共同研究では、時間依存シュレディンガー方程式に対する初期値問題のWKB型の形式解と確率微分方程式の解のファインマン・カッツの定理を介した対応関係をより数学的な立場から論じ、複素熱方程式の場合と確率微分方程式がランジュバン方程式となる場合に、この対応関係が漸近展開の意味で成立することを示すことに成功した。
なお、廣瀬三平氏、佐々木真二氏(共に芝浦工大)、河合隆裕氏(京大)とのホロノミック系の完全WKB解析に関する共同研究については、スプリンガー社から刊行予定の共著書の執筆に取りかかった。その中で、非遺伝性の二重変わり点に由来する微分方程式の新たな周期の構造や、それが引き起こすストークス現象に関する知見を整理することができた。来年度は、この共著書の執筆を本格化させる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響で本年度も多くの学会や研究集会が中止または延期され、研究成果発表の貴重な機会が失われた。一部の成果発表はオンラインで行ったものの、関連分野の研究者達との議論が行えないなど、研究計画の遂行に大きな支障が出ている。また、外国出張がほとんど困難となったために海外の研究協力者との研究連絡が停滞し、研究計画の達成に遅れが生じている。身近な研究協力者達との共同研究は何とか継続できているものの、研究計画の達成は「当初の計画より遅れている」と言わざるを得ない。
しかし、昨年度の研究成果からうまれた、差分方程式の完全WKB解析や確率微分方程式と完全WKB解析の関連性といった新たな方向性をもった研究については、こうした状況の中でも一定の成果が得られた。当初の研究目的であった「バーコフ標準形による楕円函数への変換を利用したパンルヴェ方程式のインスタントン解の解析的な意味付け」については残念ながら本年度は研究の進展は見られなかったものの、総合的に判断して、研究計画の達成については「やや遅れている」という程度が適当であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で、差分方程式の完全WKB解析や確率微分方程式と完全WKB解析の関連といった新たな方向性をもった研究に一定の成果が得られたので、今後はこの方向の研究の推進にも努めたい。差分方程式の完全WKB解析については、ベッセルの差分方程式だけでなくガウスの超幾何関数が満たす差分方程式など、より多くの具体例を調べることや、微分方程式と連立させた微分差分方程式系を考察することが今後の課題である。また、確率微分方程式と完全WKB解析の関連については、複素熱方程式や確率微分方程式がランジュバン方程式となる場合以外にも考察の対象を拡げていきたい。
さらに、当初の研究目的であったパンルヴェ方程式のインスタントン解の解析的意味付け、及び線型のホロノミック系の完全WKB解析についても、これまでに得られた知見を踏まえながら、新型コロナウイルス感染症の影響が減じるのを待って国内外の研究協力者との研究打合せを活発にし、あらためて今後の発展の手がかりを探ってみたい。
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