2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H01810
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10242033)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 一次相転移 / 量子統計力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来のカノニカル・アンサンブルは、一次相転移点で様々な問題が発生してしまったのに対して、エネルギーで状態を区別でき、そのために一次相転移点でも問題が生じないという、新しいアンサンブルを構築することに成功した。このアンサンブルを「スクイーズド・アンサンブル」と名付け、従来の統計力学アンサンブルと同様に、熱力学極限で厳密な結果を与えることを、つまり、あるエネルギーの平衡状態を表す密度演算子であることを証明した。 また、従来のミクロカノニカル・アンサンブルでは、いったんエントロピー関数を求めてからエネルギーで微分して初めて温度が求まるのに対して、直接に、温度が、エネルギー期待値から簡単に精度よく得られる公式を確立した。以上の成果を、論文としてPhysical Review B に発表した。 さらに、様々なアンサンブル間の関係をいろいろな角度から分析し、次のような成果も挙げることができた。まず、孤立量子系において実験的に磁気感受率を測定したときに、その測定値が、温度一定のアンサンブルにおける磁気感受率やエントロピー一定のアンサンブルにおける磁気感受率と、どのような関係にあるかを明らかにし、論文としてPhysical Review Letters に発表した。この成果はプレスリリースも行い、 UTokyo twitter の前後1ヶ月のプレスリリースの中で、新型コロナウイルス感染症関係のものに次いで2番目に多い295いいねと130リツイートを獲得し、日経新聞などでも取り上げられた。さらに、いずれかの統計力学アンサンブルにある量子系をうまく測定するとマクロに異なる状態の重ね合わせが生成できることを利用して、その状態を磁気センサーとして使ったときに、その感度が最良の仕方でスケールすることを示し、論文としてPhysical Review A に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、統計力学の従来のアンサンブルを拡張することにより、一次相転移も含むあらゆる相転移に適用可能で、かつ良い解析性を持つような、新しい理論的枠組みを作ること、それを用いて多体相互作用系の様々な問題を解析する新しい手法を作ることである。 それに照らすと、エネルギーで状態を区別できる、新しいアンサンブルを一般的に構築することに成功した。さらに、この新しいアンサンブルに特有の様々な公式を導き、従来の問題点の多くの部分を解決した。また、多体相互作用系の様々な問題に適用して、磁気感受率や磁気センサーへの応用まで研究の範囲を広げることができた。 これらの成果を踏まえると、1年目の成果としては、期待以上の成果があったと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた様々な成果を、さらに拡張して行く。まず、スクイーズド・アンサンブルを、平衡状態を指定する変数の中に互いに非可換な示量変数が含まれるケースに拡張する。これは、平衡統計力学の長年の課題に挑戦することになるので、かなりの困難が予想されるが、幸い、1年目に予想以上に順調に進展したので、この難問に挑戦する余裕も生まれると予想される。 また、スクイーズド・アンサンブルと、モンテカルロ法やTPQ法やMETTS法などを組み合わせて、具体的な計算手法を構築し、実際にいくつかのモデルについて、相転移の性質を明らかにする。 また、様々なアンサンブル間の関係をいろいろな角度から分析し、孤立量子系が熱力学と整合する振る舞いをするための条件や、物理量の間の関係を調べる。 また、これらの研究で得られた相転移の知見を広く伝えるために、熱力学の教科書の改訂にもとりかかり、統計力学の教科書の執筆にもとりかかる。
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