2019 Fiscal Year Annual Research Report
空間反転対称性の破れた結晶における非相反電荷輸送現象
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19H01819
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井手上 敏也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90757014)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非相反電荷輸送現象 / 非線形伝導 / 二次元物質 / 空間反転対称性の破れた超伝導 / 電界誘起超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
3回対称超伝導体である2次元MoS2や3次元PbTaSe2、極性超伝導体と見なせるSrTiO3界面電界誘起超伝導相における磁場下非相反輸送現象の研究に取り組み、微視的機構を解明した。 3回対称超2次元超伝導体MoS2における非相反伝導では、これまでに報告されていた、超伝導転移温度近傍で発現する、超伝導秩序パラメータの振幅ゆらぎに起因したパラ伝導度の効果に加えて、3回対称性を反映した超伝導ボルテックスのラチェット効果が低温相では重要であることを明らかにした。加えて、非相反伝導の磁場・温度依存性を詳細に測定し、ボルテックスのラチェット運動には古典的なラチェット効果と量子的なラチェットの2種類あり、特に2次元超伝導体に特有の量子的なラチェット運動が非相反伝導測定によって同定できることを見出した。研究成果は現在論文投稿中である。 3回対称超3次元超伝導体PbTaSe2における非相反伝導では、2次元MoS2で観測されたものと類似の超伝導ボルテックスを起源とする非相反伝導を観測し、次元性と非相反伝導の関係性を詳しく調べた。非相反伝導の符号が電流の大きさや磁場によって符号変化することを発見し、超伝導ボルテックス間の相互作用や多体効果が非相反伝導に本質的であることを明らかにした。 SrTiO3界面における非相反伝導測定では、常伝導相と電界誘起超伝導相の両方で非相反伝導を観測することに初めて成功し、非相反伝導が超伝導相で著しく増大することを実証した。また、極性構造に起因する超伝導非相反伝導も、前述した3回対称超伝導体と同様に、超伝導秩序パラメータの振幅ゆらぎに起因したパラ伝導度の効果と超伝導ボルテックスの効果の2種類存在し、それぞれが特徴的な温度依存性を示すことを発見した。得られた知見を論文としてまとめて出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
様々な空間反転対称性の破れた超伝導体における磁場下非相反伝導を観測することで、非相反伝導の普遍性の実証が進んだと同時に、微視的起源の理解が飛躍的に進展し、非相反輸送現象が、素励起の量子状態やダイナミクを理解する上で、当初考えていた以上に有用なプローブであることが明らかになってきた。 特に、2次元MoS2で観測された非相反伝導と超伝導ボルテックスダイナミクスの関係性は、2次元超伝導の研究に新しい知見と手法を与えるものであると期待される。先行研究において、量子揺らぎの大きな2次元超伝導体では、磁場印加下で超伝導ボルテックスの量子的なトンネル効果が生じることで、低温まで有限抵抗状態が続くような量子金属状態が生じる可能性が示唆されていた。しかしながら、この異常な金属状態に関しては、線形伝導の詳細な温度依存性や電流値依存性が議論に必須であったのと、他の機構の可能性も指摘される等、あまり理解が進んでいなかった。本研究では、ボルテックスのラチェット運動が引き起こす非相反伝導に着目し、ボルテックスが古典的運動をする場合には非相反伝導が巨大化し、量子的な運動に支配される領域では非相反伝導が著しく抑制されるということを用いることにより、前述した異常な金属状態において、超伝導ボルテックスの量子的な運動が支配的であることを明らかにした。また、3次元PbTaSe2において観測された非相反伝導の符号変化も、超伝導ボルテックス間の相互作用や多体効果が非相反伝導に本質的であることが示唆されている。 これらは当初想像もしなかった成果であり、非相反伝導が、今後、超伝導ボルテックスダイナミクスの研究に極めて有効であることを明示した点で意義があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
空間反転対称性の破れた超伝導体における磁場下非相反輸送現象の研究をさらに推進し、本現象の普遍性の実証と新規メカニズムを持つ非相反輸送現象の探索に取り組む。特に、3回対称性と極性構造を併せ持つZrNCl電界誘起超伝導相における非相反輸送現象の、詳細な磁場・温度・方位依存性の観測と微視的機構の解明を行う。 また、本年度研究に取り組んだ、空間反転対称性と時間反転対称性が両方とも破れた条件で生じる磁場下非相反輸送現象に加えて、時間反転対称性が保たれた条件で発現する無磁場下非線形輸送の開拓にも取り組む。GeSのような面内に分極を持つような遷移金属モノカルコゲナイドとグラフェン等とのヘテロ界面において、無磁場下非線形伝導の観測を行うことで、面内分極がグラフェンのエネルギー分散や波動関数の幾何学的性質にどのような影響を与えるかを検証する。また、3回対称性を持つ超伝導体PbTaSe2において、無磁場下非線形伝導の観測を試みる。無磁場下非線形超伝導輸送の初めての観測に挑戦すると同時に、磁場下非相反輸送との比較も行い、本物質における磁場下・無磁場下非線形輸送の包括的理解を行う。
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Research Products
(15 results)