2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H01840
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
町田 洋 学習院大学, 理学部, 准教授 (40514740)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グラファイト / フォノン / 流体力学的熱輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
絶縁体における熱伝導は、固体中の原子の集団的な振動から作られる擬粒子、フォノンが熱を伝えているとみなすと見事に説明できる。ただし、フォノンは普通の粒子とは異なり衝突する際に常には運動量保存則を満たさないため、フォノンの集団の振る舞いは気体などの通常の粒子の集まりとは異なっている。ところが、固体ヘリウムなど、超純良の結晶が得られる特別な物質では、衝突前後でフォノンの運動量が保存される正常散乱が支配的となるため、フォノンが通常の粒子のように振る舞い、まるで流体が熱を伝えているような流体的熱輸送がみられることが知られている。 本研究は、超純良ではない黒リン試料における流体的熱輸送の発見を契機として、同現象が試料の純良性に依拠しない、固体物質に普遍的な現象である可能性を追求することを目的としている。 令和1年度は黒リンと同じく2次元層状構造をもつグラファイトに着目して研究を行った。その結果、天然に存在する同位体を含む極めて一般的な質のグラファイトにおいて、流体的熱輸送を熱伝導率測定から観測した。またグラファイト試料のc軸方向の厚さを減じていくと、室温付近の熱伝導率が著しく向上し、数ミクロンの厚さのグラファイトではこれまでに知られているどのバルク物質よりも大きな熱伝導率をもつことを見出した。近年、デバイス等の効率的な廃熱を可能とする高い熱伝導率をもつ物質の開発が盛んに行われているが、本発見は高い熱伝導率をもつ固体物質の開発に新しい指針を与えるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グラファイトにおいてフォノンがあたかも流体のように熱を輸送する流体的熱輸送現象を見出した。また劈開を繰り返すことでc軸方向の試料の厚さを薄くしていくと、フォノン同士の散乱が正常散乱過程に支配されている100K付近だけでなく、室温に至る高温域まで熱伝導率が著しく向上する現象を見出した。グラファイトは、面内の炭素間の結合は強固な共有結合であるのに対し、面間方向の炭素原子は弱いファン・デル・ワールス力で結ばれている。この炭素間の結合の極端な異方性が、グラファイトにおける流体的熱輸送に重要な役割を果たしている可能性を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
過去にフォノンの流体的熱輸送が観測されている物質では、試料サイズを小さくすると熱伝導率も小さくなることが報告されている。本研究で見出されたグラファイトにおける熱伝導率の厚さ依存性はこれとは逆であるが、現時点でその原因は明らかではない。 本研究で用いたグラファイト試料は、高配向熱分解グラファイトと呼ばれるc軸方向に配向した微結晶の集合体である。熱伝導率の厚さ依存性には、結晶の配向性の指標であるモザイシティが鍵となっている可能性がある。今後はモザイシティの異なる試料を測定し、グラファイトの熱伝導率に厚さ依存性をもたらす起源を明らかにしていく。
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