2020 Fiscal Year Annual Research Report
Electronic states near the band-width control Mott transition investigated by spectroscopic-imaging scanning tunneling microscopy
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19H01855
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
花栗 哲郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (40251326)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Mott絶縁体 / 電荷密度波 / 走査型トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、層状強相関電荷密度波物質1T-Ta(S,Se)2の母物質である1T-TaS2の分光イメージング走査型トンネル顕微鏡による測定を行った。本物質では、電荷密度波の基本単位である六芒星クラスターが層間で対をなすために二種類の劈開面を有する。高エネルギー分解能の分光イメージング測定を行ったところ、いずれの表面でも上部ハバードバンド直下のトンネルスペクトルに、幅が数meVしかない鋭いピークを見出した。これは、Mott絶縁体における新しい励起状態を実験的に見出したものである。対を引き裂くように劈開した表面では、主ピークより高エネルギー側に等エネルギー間隔に並ぶ複数のサテライトピークが見出された。ピーク間隔のエネルギーは、電荷密度波の振幅モードのフォノンのエネルギーとほぼ一致しており、この励起状態が、電荷密度波と結合した励起であることが示唆される。 Ni(S,Se)2に関しては、十分な大きさの試料を得ることが未だに難しい状況だが、母物質のNiS2において予備的分光イメージング測定を行った。その結果、劈開で生じたステップエッジ近傍ではバンドギャップ内に状態が現れ、金属的状態に近づいていることが分かった。現在、再現性の確認と共に、金属化の機構に関して考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つは、電子相関がもたらす非自明な電子状態を探索することにあり、その観点から、1T-TaS2において新しい励起状態と見出したことは意義深いと考えている。特に、この励起状態は、上部ハバードバンド直下に現れること、フォノンと結合していることから、電子相関と格子の自由度のいずれもが重要な働きをするいわゆるダブロン様の束縛状態と考えられ、今後の実験的・理論的研究の展開が期待される。 NiS2の金属に近いエッジ状態も予想外の発見だった。NiS2は、絶縁体であるにもかかわらず低温で電気抵抗の上昇が抑えられることが知られており、表面が何らかの理由で金属化する可能性が指摘されていたが、このエッジ状態が関係している可能性がある。 このように、非自明な電子状態探索に関しては、一定の成果を挙げているが、もう一つの目的であったバンド幅制御Mott転移近傍の研究に関しては、試料の準備に難航している状況であるが、試料が得られ次第、実験を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
NiS2の金属様エッジ状態に関しては、測定の歩留まりが悪く系統的なデータの蓄積が必要であるために、今後も実験を継続するとともに、その発現機構に関して、理論家とも相談しながら検討を行う。 1T-Ta(S,Se)2、Ni(S,Se)2とも、十分なSe置換試料が得られ次第、バンド幅制御の実験を行うが、非自明な電子状態の探索研究が予想以上に成果を挙げているので、他の強相関物質に、物質横断的に測定の範囲を広げることを計画している。現在、相関効果が期待できるd電子系が、質量をもたないDiracバンドを形成するBaNiS2に注目して、電子相関とトポロジカルな性質の協奏によって生み出される新物性がないかどうか探索したい。
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Research Products
(4 results)