2021 Fiscal Year Annual Research Report
Relaxation behavior of polymer glass below glass transition temperature
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19H01861
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
畝山 多加志 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10524720)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土肥 侑也 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10784770)
増渕 雄一 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40291281)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高分子 / ガラス / レオロジー / 緩和 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの成果をさらに発展させ、高分子ガラスの基本的な性質を理論的に記述するための基礎的な理論を作成した。まず、高分子ガラスを含むさまざまな系の粗視化記述を行うための過渡ポテンシャルを用いた粗視化理論をミクロスケールの正準方程式から完全な形で導出し、さらに応用的に使うために必要な種々の近似や解析の道具も揃えた。また、過渡ポテンシャルによるガラス系の記述の例として、簡易化した 1 次元系のモデルに対して後述のシミュレーションを併用して解析を行った。この 1 次元モデルにおいて、ある極限でガラス転移的な挙動を示すこと、そのガラス転移的挙動が系のパーコレーションと関係していること等を解析した。 理論的な考察や解析に用いるために各種ガラス系のシミュレーションも行った。昨年度に実施した高分子ガラスの粗視化分子動力学計算を高分子を構成するビーズ間の相互作用が異なる系に対しても行い系統的なデータを得た。具体的には、ビーズ間に短距離斥力のみしか働かない系に加えて、短距離斥力に加えて引力相互作用を持つ系に対するシミュレーションを行った。レオロジー(緩和弾性率)、高分子の形態緩和(Rouseモードの相関関数)、重心の拡散(平均二乗変位)を求めて比較することで、高分子を構成するビーズ間の相互作用の違いが運動にどのように影響するかを調べた。その結果、引力の有無によらずレオロジー等の挙動は定性的には同様になることがわかった。定量的には引力の有無により高分子の形態や局所構造にほとんど変化がないにも関わらず、ガラス転移を特徴づけるVogel温度が大きく変わることがわかった。 また、これらの系との比較を行うためのモデル実験としてポリスチレンのガラス状態での粘弾性の計測を継続して行った。試料の熱履歴による粘弾性挙動の変化等を調べ、熱履歴を変えても緩和様式が変わらないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論、シミュレーションについては、高分子ガラス系だけでなくその他のガラス系やソフトマターにも応用可能な結果や系統的なデータセット等が得られており、当初の想定以上に順調に進行していると言える。特に、簡易化した 1 次元モデルや相互作用の異なる粗視化分子動力学シミュレーションのデータは今後さらにさまざまな解析に発展可能なものと期待できる。その一方、実験についてはコロナ禍による各種制限がかかっていたこともあり、測定装置や測定方法についての整備は少しずつ進展しているもののデータ取得自体は十分には進展できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
理論については過渡ポテンシャルを用いた粗視化モデルをさらに粗視化することで、高分子ガラスの長時間のダイナミクスを記述するための理論を構築することを計画している。高分子ガラスは非常に長い時間スケールに渡って緩和が生じることになるため、単一の粗視化モデルではその全貌を記述しきれないことがある。粗視化の程度(粗視化レベル)の異なる複数のモデルを作成し、必要に応じて連携することで幅広いスケールに渡る緩和過程の理解を目指す。また、1 次元モデルのような簡易化・理想化されて解析が容易なモデルの側からも高分子ガラスを記述することができないか検討を続ける。シミュレーションは既に各種興味深いデータが得られているが、得られたデータを十分に解析できていない側面がある。現在までに解析した緩和弾性率や形態緩和等に加えて、さまざまな動的・静的な性質の解析を試みる。また、現在までに得られているデータに加えてさらに条件を変えた計算を行ったり、超長時間スケールのシミュレーションを行ったりすることでよりデータセットを増やすことを考える。実験についてはレオロジー測定の結果を参考にしつつ適切な条件で高精度な誘電緩和測定と赤外分光測定が行えるようにする。
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