2020 Fiscal Year Annual Research Report
マルチハイブリッド計算の発展によるプラズマ照射と長時間構造緩和の競争機構の解明
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19H01882
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
伊藤 篤史 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (10581051)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 動的モンテカルロ / 分子動力学 / ハイブリッドシミュレーション / プラズマ壁相互作用 / プラズマ物質相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
プラズマと壁の相互作用を正しく理解するためには、プラズマ粒子の入射頻度と固体物質内部の現象との間で生じる競争現象を真面目に議論する必要がある。登場する複数の現象は時間スケールが異なっている場合もある。またそれはプラズマと固体の極端な密度差に由来している。このような系を扱いには、現実と同様のプラズマ照射フラックスや物性パラメータで物事を記述する必要がある。 この問題に真正面から取り組むため、我々は空間スケールをミクロに留めたまま、時間スケールに関してだけを粗視化してマクロへ繋ぐ計算手法を利用して、原子レベルの計算で秒に届く現象の再現を行うことを目指している。本研究においては、材料表面及び内部における原子の拡散移動や構造変化を長時間にわたって解くオンザフライ動的モンテカルロ(KMC)コードFlyAMの開発を行っている。 昨年度に比べて本年度は計算手法及びコードの見直しを行い、(1)移動障壁エネルギーの算出手法の変更、(2)重複する移動経路の除外の効率化、(3)高頻度で発生するものの大局的な変化に影響を与えない往復移動イベント(千日手/フリッカーイベント)の除外方法の開発を行った。これにより、昨年度と比べて同じ計算時間でも5倍程度の再現時間を達成できるようになった。これは(1)および(2)によるコード計算速度向上と、(3)による実効的な再現時間(再現できた経過時間)の拡大の双方の効果である。 一例として、ヘリウムプラズマ照射で誘起された繊維状ナノ構造(ファズ)の表面拡散現象を対象に、72時間の計算時間で40μ秒の再現時間に達した。ただし、再現時間は系に大きく依存するが、分子動力学に比べれば特筆すべき時間である。 また、バリデーションの相手としては実験だけでなく、より第一原理的な計算である密度汎関数理論(DFT)計算との比較が重要である。その為にDFTコードを所属機関の保有するスパコン向けに最適化を行い論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の開始から、コードのバリデーションに着手し、ファズの表面拡散現象を取り上げて活動した。しかしながら、12月の時点ではオンザフライKMCで達成できる再現時間が短く、原子の表面拡散によるファズの変形が殆ど見られない状況であった。少なくとも実験で観測される規模の構造変化まで追いかけるにはm秒のオーダーの再現が必要である。 計算のボトルネックを解析したところ、局所的なトラップサイト内で原子の往復移動を繰り返すイベントが多発し、大域的な構造変化のトリガーとなるトラップ状態からの脱出イベントが殆ど起こらないことが分かった。つまり、トラップサイト内での原子の往復イベントは将棋等に例えると「千日手」の状態にある。 そこで、KMCの理論フレームワークの範囲内で、千日手を人工的に禁じてしまう手立てを考案した。2月末には理論的に担保された方法を開発することに成功し、トイモデルによる検証を成功させた[物理学会にて報告]。また、ファズを対象にプロトタイプ計算を実行した結果が上記の再現時間である。 本手法「千日手の除外」は、KMCであれば一般的に適用可能な方法となっており、我々のコードに留まらず分子シミュレーション・材料シミュレーションの世界への波及が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは理論的に考案した「千日手の除外」手法の詳細を再度精査するとともに、自作のオンザフライKMCコードFlyAMにより厳密な形で組み込むことに取り組む。この中で問題となるのは、どのタイミングで千日手と認定するのかという点と、どこまでアグレッシブな除外を行えるかという点である。これらは理論とはある程度離れて、実際上のロバストな動作と絡んだ数値計算特有の課題でもある。 その上で、ファズ構造での長時間計算を実行し、実験と比較可能な再現時間を達成させたい。 さらに、プラズマ照射下と未照射時の表面拡散効果の違いを調べるために、BCA-MD-KMC三連ハイブリッドコードとの更なるハイブリッド化も目指す。
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