2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H01898
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授
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Project Period (FY) |
2019 – 2022
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Keywords | 符号問題 / 格子QCD / 経路最適化 / ニューラルネットワーク / QCD相図 |
Outline of Annual Research Achievements |
重イオン衝突や中性子星の内部を理解する上で重要な有限密度核物質の相図や状態方程式は、いまだに基礎理論である量子色力学(QCD)から理解されているとは言い難い。これはクォークや核子などのフェルミオンを含む有限密度系では、符号問題が現れるためである。本研究では経路積分の変数を複素化し、符号問題が抑制されるよう積分経路を、機械学習を用いて最適化する手法(径路最適化法)を発展させ、有限密度QCDの符号問題への挑戦を進めている。 令和3年度は前年に引き続き、複素結合をもつ1+1次元U(1)ゲージ理論を用いて手法の開発を進めた。特に、ゲージ対称性がある系では学習が進まないという困難があり、経路最適化法の有限密度QCDへの適用の妨げとなっていた。この問題は、モンテカルロ計算の配位のサンプリングを行う時点でゲージ固定をすることによって回避可能なことはわかっている。しかし、サンプリング時点でゲージ固定をする事は、その後のデータの活用を考えると好ましくない。そこで、ゲージ不変量をネットワークへの入力とする手法の導入とその性能評価を進めた。具体的には、格子化されたゲージ理論における基本的なゲージ不変量であるプラケットを入力とした。また、系の物理的な性質を考慮したネットワークの導入についても検討を行った。加えて、機械学習の分野で知られている教師データを回転操作などにより増やす手法を参考に、ゲージ変換を用いて配位を増やして学習を安定化させる手法の検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は、経路最適化法の更なる改良を目的としてU(1)ゲージ理論に複素結合を取り入れた系の研究を中心に行った。この系は単純に見えるが非常に厳しい符号問題が存在する。ゲージ理論においては、ゲージ固定をしない場合に学習が進まないため符号問題が改善しないという困難があり、今後の研究の妨げとなっていた。この困難に対し、この系におけるゲージ不変量であるプラケットを入力とすることで学習が改善することを示し、論文として発表した。この結果は有限密度QCDへ経路最適化法を適用する上で重要である。また、物理的性質を考慮したネットワークが近年注目されていることもあり、経路最適化法へ導入の検討を行っている。更に、経路最適化法を用いた数値計算では、ヤコビアンの計算に時間がかかるという問題がある。この問題については、様々な近似法や計算法が提案されているため、経路最適化法への適用を検討し、現在計算を進めているところである。また、有限密度QCDの性質を調べる一つの方法であるカノニカル法を利用し、多重度や確率分布の観点からどのような相構造が期待されるのかについても議論した。符号問題の存在しない虚数化学ポテンシャルを最大限利用することで、QCDの符号問題の強い領域を定性的に調べる事に成功した。研究開始当初は、ゲージ対称性がある場合に、単純なネットワークを用いた経路最適化法では学習が進まないことは想定していなかったため、当初の計画と比べると進行が遅れている。しかし、上記の研究結果や、学習が進まない問題を乗り越える方法を見つけられたことを考えれば、おおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
物理的な性質を考慮したネットワークの経路最適化法への導入を進めているため、まずこの導入を完遂し、その性能評価を行う。具体的にはStout smearingを利用して積分変数を複素化するネットワークを導入する予定である。加えて、有限密度QCDのような大きな系かつ複雑な系を調べるためには、ヤコビアンの数値計算時間の削減が急務であるため、計算時間削減の手法導入を進める。具体的には、学習時にどの程度ヤコビアンの近似をおこなって良いのかについて調べていく。また、複素結合を取り入れたU(1)ゲージ理論以外の系についても研究を進め、有限密度QCDへの経路最適化法の適用への道筋を開く。
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Research Products
(14 results)