2020 Fiscal Year Annual Research Report
Study of the influence of energetic particle precipitation on atmospheric environment in both polar regions
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19H01952
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水野 亮 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (80212231)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 良昌 国立極地研究所, 研究教育系, 特任准教授 (50425766)
野澤 悟徳 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (60212130)
長濱 智生 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (70377779)
中島 拓 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (90570359)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高エネルギー粒子降り込み / 極域科学 / ミリ波分光 / 中間圏 / 大気環境変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ほぼ同緯度に位置する南極昭和基地と北極EISCATトロムソサイトからの同時観測により、高エネルギー粒子降り込み(EPP)にともなう下部熱圏から成層圏の地球大気環境への影響を観測的に理解することを目指している。そのために、複数の分子種の同時観測を可能にする多周波超伝導ミリ波分光計、降り込み電子の密度やエネルギースペクトルを観測するスペクトルリオメータを新たに導入し、既存のレーダーやナトリウムライダーを組み合わせて観測体制を強化し、高エネルギー粒子降り込み時に生起する様々な素過程を明らかにすることを目的としている。 2020年度に昭和基地において、導波管マルチプレクサを用いて新たに開発した多周波ミリ波分光計を組み上げ、2020年11月から地上からのO3, NO, CO, HO2の多輝線ミリ波大気観測を世界で初めて実現させた。ただし、現地で混入したスプリアス信号を避けるため周波数設定を変更し、当初計画していたNO2の同時観測は断念した。また、現地での作業工程中に中間周波数系の超伝導フィルタが故障し、常温フィルタを用いた予備システムでの運用を行なった。観測に致命的な支障はでなかったものの、所期の目標性能に達することができなかったため、現地に研究員を越冬隊として派遣し観測システムの改修・改良を行うこととした。南極への出発は2021年11月で、それまでの間に、超伝導フィルタの改良と冷却のための専用ジグの作成、また、スプリアスを避けてNO2の観測を行うため、デジタル分光計の広帯域化とそれに合わせた中間周波数系全体の周波数チャートの再設計を行なう等の準備をした。12月末に研究員は昭和基地に到着し、極低温冷凍機の定期メンテナンスを行なったのち、超伝導フィルタを含む冷却受信機の再セットアップ/動作確認を行い、受信機雑音温度(SSB)で40 K程度の改善が確かめられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の独創的な観測装置の一つである多周波ミリ波分光計の開発では、本研究前に積み上げてきた要素開発により短期間で昭和基地での実機組み上げを終え、世界初の地上多輝線同時観測を実現させることができたが、現地での想定外の故障などいくつかの項目で所期の性能が達成できず、解決すべき課題も明らかになった。新たに研究員を雇用し、課題を解決するため中間周波数系回路の再設計や超伝導受信機の実験室評価、現地作業を円滑に進めるための追加の部品製作等を進め、昭和基地到着後に改良/改修を行い、基本的な性能評価を行なった。計画に対し若干の遅れは生じたものの、今回の一連の再検討の過程と改良/改修を通して、観測システムの完成度を高めることができ、今後の長期観測に向けて良い成果が得られたと考えている。スペクトルリオメータに関しては、コロナの影響で国内試験観測を予定通りに実施することができなかった。昭和基地に移設した後に装置に不具合が発見された場合、現地では対処できない事態に陥る可能性が大いにありうるため、2020年度中に昭和基地に輸送することは断念し、装置の立ち上げと運用開始は2021年度に送ることとした。2020年度は昭和基地で稼働中の大型大気レーダー(PANSYレーダー)からの電波干渉を回避するため、PANSYレーダーが電波を送信していない時間のみデータを取得するためソフトウェアラジオ(USRP)を用いたデジタル信号処理のハードとソフトを開発した。 また、ノルウェー・トロムソの北極側の観測に関しては、コロナ禍によりノルウェーに赴くことができなかったため、2019年度にミリ波分光計で発生した電波強度の校正に使用する液体窒素製造装置の水漏れの対応ができず、観測運用が停止している状況が続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず昭和基地でのミリ波多輝線観測およびスペクトルリオメータの定常運用の確立を目指す。また、コロナ禍が収束し、渡航が可能になり次第、ノルウェーでの液体窒素製造装置の水漏れを修理しミリ波の連続観測を再開させる。ただし、ノルウェーのミリ波分光計は採択経費削減のため当初計画の多周波化の実現は難しく、周波数を随時切り替える一酸化窒素(NO)とオゾンの交互観測をベースにデータを取得する。 今後の問題点としては、コロナ禍に伴う国内・国外対する移動規制がどのように推移するかが最も大きい。南極昭和基地への移動や現地活動については、一定期間の自己隔離などを含む明確な対応を国立極地研究所が打ち出し、その対応策のもとに計画的にかつ着実に南極地域観測隊の活動が実施されている。その一方で、外国の研究機関とともに運用しているトロムソの観測は、相手国側の事情と我が国の事情の双方による制限を受けるため、先が読みにくい状況にある。当面の間は、これまでに蓄積された、昭和基地の一酸化窒素およびオゾンの観測データを中心に、過去のデータを整理・集約するとともに、多輝線観測によって変更した新しいデータフォーマットに対応したデータ解析プログラム、および周波数スイッチングによるオゾン観測データのリトリーバル解析プログラムの新規開発を進める。また前述のように、スペクトルリオメータに関しては、国内での試験観測についてもコロナ禍の影響が出ている。なかなか先が読めない状況であるが、南極にしても北極にしても現地に観測システムを送ってしまうと、何か障害が見つかった時、その対処に大幅な手間とコストが必要になることもありうる。こうした時期だからこそ、拙速を避け、今回の新しい装置群が、今後10年以上にわたり南北極域でのモニタリングデータを取得することの重要性を考えた上で未来につながるように研究を進めていきたい。
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[Presentation] 南極/北極における中層大気環境計測のための広帯域ミリ波分光ラジオメータの開発研究2021
Author(s)
中島拓, 溝口玄真, 齊藤善治, 長濱智生, 水野亮, 谷口暁星, 藤森隆彰, 児島康介, 小林和宏, 鈴木和司, 林拓磨, 關谷尚人, 田島治, 安達俊介, 大塚稔也, 小嶋崇文, 鵜澤佳徳, 藤井泰範, SHAN Wenlei, 江崎翔平, 宮地晃平, 渡邊一世
Organizer
第21回 ミリ波サブミリ波受信機ワークショップ
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