2020 Fiscal Year Annual Research Report
月惑星探査のための岩石組織に対応した可視近赤外分光データ解析モデルの構築
Project/Area Number |
19H01953
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐伯 和人 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (50292363)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 月探査 / 近赤外分光 / 可視分光 / 岩石組織 / 月極域探査 / 氷検出 / レゴリスシミュラント / 着氷 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の三つの柱「人工岩石の合成」、「人工岩石と天然岩石の分光観測」、「分光データ解析モデル構築」のそれぞれに進捗があった。 「人工岩石の合成」では人工火成岩と人工凍土の2 種類をが合成する。人工火成岩に関して、ブロック状に成形した単結晶を電気炉で焼結させる方法にて、人工深成岩を作成した。微量氷を含む人工凍土試料の合成に関しては、完成済みの「落下式着氷装置」を活用しつつ、気圧を数パスカル程度まで下げた状態で水分子を低温レゴリスシミュラントに衝突させて着氷させる方式についても装置(真空衝突式)を作成し使えるようになった。落下式と真空衝突式のそれぞれで着氷形態が異なるかどうかは、今後の観察課題である。落下式着氷装置を活用して鉱物の種類や混合比を変えた模擬土壌に着氷させたり、着氷する鉱物の粒径を変化させたりして、多様な凍土の氷を定量できるようにするための系統的なデータを集めた。 二本目の柱の「人工岩石と天然岩石の分光観測」に関しては、改良された画像分光装置で 東京大学総合博物館から借りた天然試料の分光観測を行い、天然岩石と合成岩石を比較するデータが蓄積された。また、前述の人工深成岩を測定した。結果、その鉱物境界面は強い反射面にはならず、屈折率の違いによるわずかな反射しかないことがわかった。 三本目の柱の「分光データ解析モデル構築」に関しては、まず、人工岩石については結晶光学モデルで計算した時の結晶方位の異なる結晶が完全に結合した状態がほぼ再現されていることが確認された。つまり、天然岩石で強い近赤外吸収があるものは、内部の割れや、結晶同士の不完全な接合など、大きな粒径の粒子の集合体に近い散乱構造を持つことが強く示唆される。一方、人工凍土試料に関しては、実際に着氷させなくても、乾燥試料のみから着氷状態の氷の近赤外吸収の検量線を推測できる規則性を見つけ出し、現在、国際学術誌に論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題に必要な主要な研究装置に関しては、可視域拡張近赤外カメラ導入、スペクトル測定装置の改修、ワンショット3D形状測定装置の導入、電気炉の発熱体の交換、落下着氷装置製作、真空着氷装置の製作と、全て達成することができ、順調に運用されている。新型コロナのために、国際学会での研究成果の発表などは、延期せざるを得ない状況は続いているが、新型コロナがやや沈静化している時期を見計らって東京大学総合研究博物館に出張し、所蔵の天然岩石試料を多数借り出すことができ、予定のデータはおおむね得ることができた。国際学会での対面議論はまだ果たせていないが、成果の一部を国際学会誌にて発表することができ、さらに現在も新たな成果を投稿中であるので、情報交換という意味ではやや物足りなさを感じるものの、成果の公表という意味では有効な活動ができていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「人工岩石の合成」に関しては当初予定のピストンシリンダーによる合成がうまくいかず結晶ブロックを焼結する方式に変更するなどの工夫が必要であったが、「人工岩石と天然岩石の分光観測」、「分光データ解析モデル構築」を含めた三本柱の研究はおおむね予定通りに実行できた。当初、深成岩組織の結晶粒界でもある程度の光散乱は起きると想定していたが、弱焼結の人工岩石の粒界で結晶方位を極端に代えた場合でも光散乱がほとんど起こらないほどきれいにくっついてしまうことがわかった。岩石の反射分光は、結晶粒界ではなく、内部の割れ目などが主な光散乱の源と考えられ、解析モデルは従来の粒子による散乱のモデルをベースに改良する必要があることがわかった。残りの研究期間で実用的なモデルを提案したい。凍土の分光データに関しては、着氷量を着氷実験をしなくても推測できるモデルを作成できた。ただ、現状は、系統的に条件を変化させて得た実験データから見つけ出した規則性であり、なぜその規則が成立しているかの物理的な説明が確立できていないので、解釈の補強を試みたい。学会発表に関しては、バーチャル開催の場合でもより効率的に成果公表や情報交換ができるように、デジタルコンテンツの作成にこれまで以上に注力していく所存であるが、データ解析モデルは他の研究者の研究に役に立ってこそ意味が生じるので、対面で議論できる機会はやはり重視したいと考えている。
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[Presentation] Development of Two Types of NIR Spectral Camera for Lunar Missions SLIM and LUPEX2021
Author(s)
K. Saiki, M. Ohtake, Y. Nakauchi, H. Shiraishi, Y. Ishihara, H. Sato, C. Honda, T. Maeda, C. Yamanaka, H. Nagaoka, S. Sakai, S. Sawai, S. Fukuda, K. Kushiki, N. Ebizuka, M. Sasaki, T. Okamoto, M. Kayama, H. Demura, K. Kitazato, Y. Ogawa, T. Mikouchi, and T. Hirano
Organizer
52nd Lunar and Planetary Science Conference 2021
Int'l Joint Research
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[Presentation] 月極域探査のための画像分光カメラALISの開発2021
Author(s)
佐伯 和人, 仲内悠祐, 小川佳子, 鹿山雅裕, 北里宏平, 出村裕英, 長岡央,平野照幸, 三河内岳, 海老塚昇, 岡本隆之, 佐々木実, 山形豊, 石原吉明, 唐牛譲, 水野浩靖
Organizer
日本地球惑星科学連合2021年大会
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[Presentation] 月極域探査のための画像分光カメラ ALIS の仕様と開発状況2021
Author(s)
佐伯和人, 仲内悠祐, 海老塚昇, 岡本隆之, 小川佳子, 鹿山雅裕, 北里宏平, 佐々木実, 出村裕英, 長岡央, 平野照幸, 三河内岳, 山形豊, 石原吉明, 唐牛譲, 水野浩靖
Organizer
日本惑星科学会2021年秋季講演会
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