2019 Fiscal Year Annual Research Report
北極海氷の減少が如何にして東アジアの異常寒波を形成・増幅させるのか?
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19H01964
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 正人 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (00749179)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西井 和晃 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50623401)
小坂 優 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (90746398)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地球温暖化 / 異常気象 / 北極 / 海氷 / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
WACEパターンの発現に対する大気-海氷相互作用の重要性が調査された。結合過程を考慮した大気海洋結合モデル(CGCM)による長期積分と、その出力である海面水温や海氷密接度を境界条件とした大気大循環モデル(AGCM)の長期積分とを比較することで、WACEパターンの振幅(分散)に対する結合過程の重要性を評価した。その結果、AGCMよりもCGCMでWACEの振幅が大きくなることが明らかになった。このことは、大気-海氷間の正のフィードバックがWACEの振幅を増幅させていることを示唆している。これらの結果は論文にまとめられ、Nature Climate Change 誌から出版された(Mori et al. 2019)。 WACEパターンは本来、中緯度大気に固有の大気内部変動であり、北極域の海氷変動や熱帯・中緯度域の海面水温変動が外部強制としてWACEパターンの出現確率を変調していることがこれまでの研究で示唆されていた。しかし、海面水温変動が具体的にどのようにWACEの発現に寄与しているのかは明らかではなかった。そこで、再解析データやAGCMならびにCGCMを駆使し、ENSOの発達・衰退に伴う熱帯海面水温変動の影響を調査した。その結果、ラニーニャ現象の衰退に伴う熱帯大西洋の降温が極域へ伝わるロスビー波列を励起し、それがWACE変動のある部分を強制することが分かった。また、WACEを強制するためには大西洋の海面水温偏差のみでは不十分であり、バレンツ・カラ海の海氷減少を伴わなければならないことをAGCM実験から示した。このことは、大気循環と海氷の相互作用がWACEの発現に重要であることを示唆している。これらの結果は Nature Communications 誌から出版された(Matsumura and Kosaka 2019)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のMori et al. (2019) により、大気-海氷相互作用の重要性が明らかになってきており、引き続きこの問題を調査していく。また、対流圏-成層圏結合が再現可能な high-top モデルによる大規模アンサンブル実験が、CGCMとAGCMの両方で進行中である。対流圏-成層圏結合の重要性の調査は遅れているが、実験が終わり次第、取り組んでいく予定である。また、エネルギー収支解析によるWACEパターンの形成・維持メカニズムの調査も現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のMori et al. (2019) により、大気-海氷結合過程がWACEの振幅を増幅させることが明らかになったが、用いた実験セットが現在気候に比べ海氷が厚く変動も小さい産業革命前の気候条件下でのシミュレーションであったため、結合効果は定量的にはそれほど大きいものではなかった。また、フィードバックの詳細なメカニズムも未解明である。現在進行中の大規模アンサンブルデータから、結合フィードバックのメカニズムを解明し、現在気候下(あるいは将来の温暖化気候化)での結合効果を定量化することが今後の課題である。これらの知見を基にした数値モデルの改良等が、東アジアの将来予測や季節予測可能性の向上に不可欠であり、今後も継続してこの問題を調査する必要がある。 また、エネルギー収支解析などにより、WACEパターンの形成・維持メカニズムを明らかにすることが重要であり、引き続き調査を行なっていく。
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Research Products
(16 results)