2019 Fiscal Year Annual Research Report
A thermodynamic mechanism for the maintenance of the moist-tropical margins
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19H01966
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
増永 浩彦 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (00444422)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 健太郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (00396946)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 熱帯気象学 / 衛星地球観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
低緯度大気における鉛直積算水蒸気量の頻度分布は、熱帯湿潤域と亜熱帯乾燥域のはざまに当たる約48 mmの極小値を挟んで二極構造を持つことが知られる。熱帯と亜熱帯を分かつこの「48 mm境界」付近で水蒸気量がしばしば特異な変動を示すことが、最近の観測研究からわかってきた。本研究では、熱帯亜熱帯境界における水蒸気の動態解明が熱帯気候場の形成機構の理解に新たな進展をもたらすと考え、水収支・エネルギー収支解析を大気力学場診断に活用する独自手法を衛星観測データに適用した。 まず、Aqua衛星搭載マイクロ波放射計AMSR-Eから48㎜境界を同定し、その熱帯側・亜熱帯側に広がる雲構造と放射加熱の実態をCloudSat・CALIPSO両衛星搭載雲レーダ・ライダ観測データを用いて明らかにした。またAqua衛星赤外サウンダAIRSから得られる気温・湿度データを組み合わせて水・エネルギー収支解析を実施し、48㎜境界を挟んで大気の熱力学的状態が定性的に変化することを突き止めた。境界から湿潤側では大気への熱エネルギー注入が、乾燥側では熱エネルギー損失が見られ、その不均衡を補うように大気循環が維持されるハドレー循環的な構造が認められた。しかし既存知見と異なり、熱帯の最深部ではなく境界に近い領域で降水ピークが見られた。これは、亜熱帯から熱帯へ移動する下層大気塊が境界を通過後、鉛直流に伴う降水をもたらして水蒸気を失う動的プロセスを経て、最終的に熱帯深部で熱的平衡に達するラグランジュ的描像で理解される。 一方、熱帯・亜熱帯大気の熱力学場を簡略化し表現する概念数理モデルを構築し、観測から示唆される48㎜境界付近の水蒸気動態を理論的に説明する道筋を示した。この成果は、既存の静的な気候区分に代わり、日々ゆらぐ気象場と密接に連動する動的な熱帯・亜熱帯という新たな描像を提示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱帯・亜熱帯境界における大気動態について、地球観測衛星データを中心とした解析ならびに簡便な理論モデルを用いた考察を行い、計画立案時に設定した問題意識に対する一定の解答を与えることができた。本研究の成果は、米国気象学会の論文誌に原著論文として出版された(Masunaga, H. and B. E. Mapes, 2020 "A mechanism for the maintenance of sharp tropical margins" J. Atmos. Sci., 77, 1181-1197)。引き続き理解を深めるデータ解析研究を推進中であるが、2019年度末に発生したコロナ禍が引き起こした前例のない移動制限により、国内外の研究分担者および研究協力者と密接な連携を維持することが困難な状況が続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
熱帯・亜熱帯境界が顕著に現れる熱帯東太平洋の熱帯収束帯(ITCZ)に着目し、湿潤大気と乾燥大気が直接接するITCZ周縁部で降水が顕著に発達する事例を抽出し、その駆動メカニズムを探る研究を模索している。国内外の研究分担者および研究協力者とはオンライン会議ツールを用いた討議を重ねつつ、2021年度内には成果を論文にまとめる予定である。
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Research Products
(6 results)