2020 Fiscal Year Annual Research Report
海洋堆積層のS波速度解析に基づく南海トラフ巨大地震による長周期地震動予測の高度化
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19H01982
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
中村 武史 一般財団法人電力中央研究所, 地球工学研究所, 主任研究員 (40435847)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仲西 理子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震発生帯研究センター), 副主任研究員 (30371727)
藤江 剛 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震発生帯研究センター), センター長代理 (50371729)
澤崎 郁 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 特別研究員 (30707170)
高橋 成実 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 総括主任研究員 (70359131)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋堆積層 / S波速度 / 南海トラフ / 長周期地震動 |
Outline of Annual Research Achievements |
走時解析に関して、過去に海域で実施された地震探査測線データのPS変換波走時の変換面同定のために、既往の経験的なP波速度とS波速度との関係を整理し、南海トラフ域に適切な関係を用いてS波構造モデルを推定するとともに、地震調査観測データに基づくS波速度の推定値との統合による3次元モデル構築の枠組みについて検討を進めた。また、御前崎周辺の駿河トラフから東海沖にかけての海陸境界域において、地震探査測線データの2次元波線追跡を行い、島弧地殻の沈み込みの影響で陸側のP波速度5 km/s層以深ではポアソン比0.25、浅部堆積層はポアソン比0.26~0.31となり、河口の沖合延長部で大きな値であることを示した。 波形解析に関して、常設の海底地震観測点および機動的に設置した臨時海底観測点の人工震源探査時のデータを活用し、レシーバー関数解析などによって観測点直下のS波速度構造を見積った。南海トラフ域で広く観測されるBSR(Bottom Simulating Reflector)よりも浅層側のVp/Vsは4~5程度、S波速度は1 km/sよりも有意に小さいことが分かってきた。加えて、海底地震観測点上下動データに地震波干渉法を適用し、解析対象領域の平均的なレイリー波の分散曲線を抽出した。さらに、解析で扱う海底地震観測点の敷設タイプや敷設海域と関係した特徴的なスペクトル比特性等を示し、論文および国際学会で発表を行った。 地震波シミュレーションに関して、既往の地盤構造とプレート形状モデルを使い、南海トラフ周辺における周期5秒以上のシミュレーションを実施した。S波速度値のチューニングによるシミュレーション波形の振幅評価を行ったことに加え、複数の中小地震の海底地震観測波形振幅の距離減衰特性について調査を行い、シミュレーション結果や経験式と違いが見られる観測点について情報を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、過去に海域で実施された地震探査測線データのPS変換波走時の変換面の同定のために、既往の経験的なP波速度とS波速度との関係と3次元P波速度構造に基づき、3次元S波構造モデル構築の枠組みを検討した。比較のために、地震調査観測から推定された海底堆積層の1次元S波構造の情報についても収集した。また、波形解析に基づくアプローチでは、観測点直下のPS変換面までの時間的な厚さを安定して検出できるようになってきたが、複数のPS変換波があった場合の解釈は容易ではないこと、海底面の起伏が激しい場所では安定したイメージングが得られないことなどが改めて明らかになってきた。今後、PS変換面までの時間深度分布の広域マッピングなどで、PS変換面の解釈の確実性を高めていく必要がある。南海トラフが位置する海域のうち東側の海域、特に御前崎周辺の駿河トラフから東海沖にかけての海陸境界域においては、地震探査測線データの2次元波線追跡を行った。陸側の海域および浅部堆積層のP波・S波速度を示し、河口の沖合延長部で特に大きな値であることを示した。常設の海底地震観測点のデータを使った波形解析では、データ中の雑微動記録からレイリー波の分散曲線を抽出した。本研究課題の対象帯域である周期5-10秒の範囲で明瞭に観測されていることを確認し、今後さらなる解析でS波速度構造の推定が可能と考えられる。地震波シミュレーションについては、既往の速度構造モデルのS波速度値をチューニングし、地震波シミュレーションの改善を試みているものの、その程度に関する定量的な評価までには至っていない。今後、常設の海底地震観測点データとの比較解析をさらに進める予定である。 当初計画よりやや遅れている項目や計画以上に進展している項目があり、総合的に見て「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
走時解析に関しては、先行研究によるS波速度に関する経験式を使った海洋堆積層のS波速度推定および実際の観測データを基にした推定値の妥当性の評価、変換波走時解析による推定値の修正を進めていきたい。また、P波速度5 km/s層以深の領域や海洋堆積層内でのポアソン比分布結果についてその成果をまとめ、論文等で発表を行いたい。波形解析に関しては、使用する観測データによっては波形解析による変換面の解釈やイメージングの安定性に困難なケースがあり、今後は、PS変換面の解釈の確実性を高めるために、変換面までの時間深度分布の広域マッピングなどを検討したい。また、常設海底観測点の波形データから、分散曲線のインバージョン解析による1次元S波速度構造の推定や、対象領域全体を分割した小領域ごとのS波速度構造推定にも着手したい。その際、レイリー波の1次モードも利用した先行研究の手法を試みることを検討したい。地震波シミュレーションに関して、チューニングした速度構造モデルを用いて地震波振幅分布の定量的な評価を試みたい。
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Research Products
(4 results)